適応障害、家出…壮絶な経験の先に「自分の物差し」を見つけられた理由|hal代表・山田瑠人

社会に一石投げようと試みるも、適応障害になる

高校生へのキャリア教育ボランティアカタリバ時の写真

ー神戸大学に入学した転機もあったとのことですが、どんなエピソードがありましたか?

新入生歓迎会に行ったことを機に、先輩に誘われて認定NPO法人の「カタリバ」に入りました。カタリバは、高校生にキャリア教育を届けるボランティア団体です。高校生と車座になって語り合う場を提供していて、団体に加入している人たちが高校生に対して「こうなりなさい!」と頭ごなしに言うのではなく「どうなりたいの?」と語りかける場になっていました。

最初は「誘われたから行ってみよう」と気軽に参加しました。親身になって聞くことが高校生に必要とされている現場を目の当たりにし、非常に考えさせられました。自身が人と丁重に関わるきっかけにもなりましたね。

カタリバのコンセプトは「本音の対話と斜めの関係」。縦は先生や親、横は友だちや恋人、そのどちらでもないちょっと斜め上の先輩と本音で話すことでした。僕が高校生のときに「こんな場所があったらな…」と思えるほど、非常にいい団体だなとも感じていました。

ーほかのメンバーはどんな方がいましたか?

ひとり、変わったおじさんがいたんですよ(笑)高校1年生のころに中退して、ストリートミュージシャンになって世界を変えるぜ!って活動したけど、結局うまくいかず、その後、働いていた会社も倒産して、急に先生を目指し始めたみたいな…。

僕自身、高校のときに荒れていたとはいえど、結局大きく道を外すことはなかったので新鮮でしたね。ほかにも自分の常識から外れた人がたくさんいました。学歴が高かったとか、ロジカルにものを考える人だったわけでもなく、一つの価値や判断軸にもハマらない素晴らしさがあるんだなという学びにもなりました。

ー山田さんにとって価値観が大きく変わった瞬間だったんですね。22歳のとき、ビジョンと情熱の喪失があったとのことですが、このとき何があったのでしょうか?

当時、ものすごくビジョナリーな大学生になっていました。子ども食堂の立ち上げをしたり、発達障がい児の療育と親御さんの支援のあり方に真摯に向き合って、デンマークの教育を受けるために旅行会社と共催して、現地に渡航することもありました。

デンマーク研修を行ったときの写真

小中高と漠然と抱えていた、教育のあり方の違和感や課題意識から、どうにか教育を変えなければいけないと思っていた大学生活でした。

就活の時期は教育系、人材系を中心に会社の説明会に行きました。色んな企業を見るなかで、自分が本当にやりたいことが達成できると確信できる企業を見つけることができず、休学をすることに決めました。

その後も教育をよくするために、いろんな活動をがんばってきました。その結果、心の部分でエラーが起きてしまったのです。

ある日、ひょんなことから心がぽきっと折れてしまって。当時やっていた活動、仕事、人間関係、住んでいるところが繋がっていたので、家を出ました。もともと実家からも家出もしていたので、すべてを失いました。

すべてを失い実家に帰宅。復帰できた糸口は「人」。

ー壮絶な22歳だったんですね…。その後はどのように復帰されたのでしょうか?

家族や友人のおかげです。絶縁状態で両親と全く関わっていなかったのですが、収入的にも精神的にも限界で、帰らざるをえない状態になりました。1年ほど家出をしていたのですが、急に帰ってきた僕のことを何も言わずに受け入れてくれました。

身勝手に飛び出した僕に対して、当たり前のようにご飯を食べさせてくれて。今までと変わらず受け止めてくれました。自身の立て直しにも真摯に関わってくれました。

この経験が自分の人生にとってとても大きくて、外側のことばかり気にしていた自分が、初めて自分と向き合うことができました。

外側に矢印が向いていたのが、初めて内側に矢印が向いた。

幼少期から抱いていた「みんなと違う」を自分で受け止めきれていませんでした。常に外側に自分の痛みを投影してしまっていたのです。その結果、教育をなんとかして変えなきゃいけないという思いになっていたんだなと。

この一連のできごとで再び家族と繋がり安心できたことで、自分の人生が180度変わりました。

安心感を持ち続けるための「自分の物差し」の大切さ

ー山田さんご自身が立ち直ることができた理由の一つとして「安心できた」ことが非常に大きいと思います。山田さんはどのように、ご自身が安心できているかどうかを確かめられていますか?

生活をちゃんとしているときは、安心感があるときですね。僕の場合キッチンを見れば、自分の安心感が測れます。キッチンがあまりキレイじゃないときは、安心感があまりないなと感じます。キッチンのキレイさは一種のパラメーターになっていますね。

ー自分にとっての物差しが必要なのですね。山田さんはキッチンをよく使うから、キッチンを設定されたように、いろんな物に置き換えて考えられそうですね。

そうですね。僕がキッチンが整っていることが安心の象徴だなと思った理由は、キッチンってどれだけキレイでも汚くても成長にはまったく連動しないからです。

挑戦と安心のバランスが大事なので、キッチンが乱れているのは未来やポジティブなことに価値が置かれすぎているときです。挑戦と安心のバランスは常に均等にしてあげたいなと思いますね。自分の成長に関与しないことをあえて選ぶのが大切かと。

安心をおざなりにしてしまうと、心のエラーが起きてしまうんですよね。大学生のころ、ビジョンに対して一心不乱に挑戦したいことを優先させすぎたことによって「家族は邪魔だ」と切り捨ててしまいました。家族がいても仕事の効率がよくなるわけではありませんが、優劣をつけてしまうことで、挑戦と安心のバランスが崩れ、結果的にがんばれない自分になってしまうと思います。

深い安心は、自分が挑戦するためにも必要不可欠な物だと感じています。

ー今後の展望、描いていることがあれば教えてください!

自分なりの深い安心を感じながら、自分に必要な対話を学べるコーチングセッションをオンラインスクール、オンラインサービスを当たり前にしていきたいと思います!

なるべく多くの人が深い安心がある状態で生きていける世界をつくっていけたらと思っています。

取材:山崎貴大(Twitter
執筆:本庄遥(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter