多くの人がより幸せに生きる社会を。露口啓太が大切にするWell-beingの考え方

ヘルスインフォマティクス先進国で、医療AIの研究に励む

ー浪人後、金沢大学に入学されてからはどういった生活を過ごしていましたか?

20歳の頃から、医療AIの開発に携わるようになりました。きっかけは、人工知能やディープラーニング、機械学習の技術を使って、認知症を早期発見できるニュースを知ったからです。実は大学受験中に、医者や医療従事者だけで解決できることは限られているのかもしれないと感じました。でもAIの技術を使えば、医療を変えていけるのではないかと思ったんです。そこで、大学では医療分野を専門にしながら、1年生から機械学習や人工知能を学び始めるようになりました。金沢大学病院からビッグデータをいただくことで、機械学習を使って病気を予測するようなことに取り組んでいました。

ー自主的に工学も学びながら、医療に応用されたのですね。さらに、大学時代には海外に留学されたそうですが、きっかけを教えてください。

医療AIは「医療」と「AI」なので、それぞれ専門性が異なります。その両方を理解している人はほとんどいませんが、医療AIをするにはどちらも理解しなければいけません。ただ、自分の研究チームでは、医療とAIの両方を研究する人がが僕しかいない環境でした。医療の先生には機械学習を、機械学習が専門の先生には病気について教えることもあって。だから、もっと最先端の勉強をしたいと思ったのが留学のきっかけですね。

医療AIとはヘルスインフォマティクス、日本だと健康情報学や医療情報学と呼ばれている比較的新しい領域です。専門に研究している人が周りにいない状況だったので、Google Scholarを使い、独学で研究領域の論文をひたすら読み込んでいました。そのうちにヘルスインフォマティクスの先進国で研究ができれば、自分もさらに成長できるし、医療AIの分野でのスキルも向上するのではないかと考えたんです。なかでもアメリカは、ヘルスインフォマティクスの先進国でした。そこで大学の先生の紹介で、ニューヨークにある外資系製薬会社と薬学で有名なラトガーズ大学に1年間留学をしました。

ー実際に留学をしてみていかがでしたか?ご自身の成長意欲や探求を叶えられる場所でしたか?

そうですね。大変なこともありましたが、僕自身はとても楽しく過ごせました。研究テーマも裁量権を持って自分の追求したいものを研究できましたし、アカデミックスキルやプログラミングスキルも向上しました。でもそれ以上に、アメリカという世界に触れるのが楽しかったです。英語でもコミュニケーションがとれるようになり、ニューヨーク在住の優秀な方々との繋がりもできました。彼らには今でもお世話になっています。それに、純粋に大自然のなかで遊べたのもあって充実した時間でした。

自分自身と向き合いながら、どう感じるかを大切にしてほしい

ー国内外で医療AIの研究をしたり、人とのご縁にも触れられたりしたなかで、現在着目しているのがWell-beingだと思います。Well-beingに改めて着目した理由はなんでしょうか?

医療AIの研究は楽しいのですが、現状それだけでは世の中に貢献できないと思ったのが理由の一つに挙げられます。僕が医療AIを始めたのは、病気予防や医療問題の解決ができそうだと思ったからです。ただアメリカで研究するなかで、医療AIに対して一種の虚無感を覚えるところがあったんです。

結局のところ病気予防の医療AIは、その人の生活習慣を変えましょうという結論に落ち着きます。AIは未来を予測しますが、未来を変える要素は「現在の行動」なんです。ただ、全員が生活習慣を変えるために行動できるかというと難しい。睡眠時間や運動時間の確保、バランスの良い食事など大部分の人が知っていても、実際は仕事や勉強、日々の生活が忙しくて実践できないから困っているんです。そのギャップにもやもやしました。

また、元々は人の健康寿命をどうやって伸ばすかに興味を持っていたのですが、健康寿命が伸びても人生を楽しく生きている人が少ないように感じたんです。考えているうちに、どうしたらWell-beingを上げていくことができるのかに興味を持ち始めました。ただ単に健康なだけではなく、Well-beingが伴った人生のほうが絶対にいいし、そういったプロダクトが世の中にあまりないと感じたからですね。

ー最近ではWell-beingの認識が広がり、情報も増えていると思います。露口さんの視点から、Well-beingにおいて大事なことやプロダクト開発で追求している点を教えてください。

自分がどう思っているのかをきちんと振り返ることは、Well-beingを実践するうえで大事だと思います。そのため僕も、テクノロジーの要素だけを押し出しすぎず、人にとって優しいプロダクトを作りたいですね。

Well-beingの論文を読み漁ると、どのように一日を終えるのかが大事で、なかでも振り返りの時間が重要だと書かれていることが多いんです。一日を振り返ろうとしたとき、一般的にはどれだけTO DO(何をするか)を消化できたかを考える方々が多いように感じます。でも実は、TO DOよりもTO FEEL(どう思って過ごすか)を振り返るほうが、エンゲージメントや社員の生産性が上がるそうです。仕事の生産性を考えると、TO DOをどれだけ消費するかが指標になると思いがちだったので、TO FEELの観点はおもしろいと感じました。

ーWell-beingは、29歳以下でいろんな転機を迎える方々にとっても重要な概念だと思います。露口さんにとってのWell-beingな状態は、どういった要素がありますか?

自分自身ときちんと向き合いながら、自分の経験や相手との素敵な時間を共有することは大事な要素だと思います。そもそも自分はどういう人になりたいかを見つめ直し、人と社会をつないでいくことが大切です。

僕も留学時代にやりたいことがあるのに心身が追いつかず、やる気が出ないことがありました。どうやってモチベーションを出せばいいのかわからず、ひたすら悩んでいたように思います。そこで仮説を持ちながら、行動と感情の因果関係を可視化するようになりました。

ー最後に、露口さんが今後どのようなことに挑戦したいのかを教えてください。

今後もより多くの人が健康かつ幸福に生きられる社会になるように、テクノロジーを用いて実現することに注力したいです。そのために現在toB向けプロダクトを開発し、人に優しいプロダクトを通してWell-beingの向上に寄与したいと思っています。社会に対してWell-beingを切り口に、組織改革や既存構造を変えられるプロダクトをリリースし、世の中にインパクトを出していきたいです。

取材:山崎貴大(Twitter
執筆:`スナミ アキナ(Twitter/note)`
デザイン:高橋りえ(Twitter