ー総合大学に通いながらアートやデザインに関わるために、どのようにして活路を見出したのでしょうか?
デザインや制作の時間がとれないショックをバネに、無理をしてでも自分で時間を捻出しようと思考が切り替わったんです。その切り替えが大学院進学につながっていると思います。
大学時代も、表現したものを誰かに見てもらったり、喜んでもらえたりすることは嬉しいと感じていました。とはいえ、目的がない状態で作り続けるのは難しかったので、モチベーションを上げるためにコンペやイベントに応募したり、デザインを必要とする学生団体やNPOに所属するところから始めました。
おかげで20歳の年、サマーソニックのライブペインターとしてパフォーマンスすることを経験できたりしたのは今でも思い出です。当時お世話になった事務局の方とは今でも連絡を取り合っています。
大学後半はデザインのスタッフとしてPhotoshopやIllustratorを使い、研究のかたわら手を動かして依頼物を制作する毎日でした。その後は画材屋さんで一式を揃えて、住んでいたアパートでアート作品の制作も始めました。
ーついに一歩を踏み出されたんですね!
はい。当時は、旅先でも画材屋さんがあると必ず寄っていました。そこで幸運にも、海外のアートフェアに作品を出展している方と知り合いになったんです。お話をするうちに作品なども見ていただき、次のドバイ出展時に声をかけていただきました。参加アーティストの登録まで4ヶ月しか制作期間がなかったので、朝早く起きて作品制作に没頭しましたね。
なんとか仕上げて出展したそのアートフェアで、初めて自分の作品が1,000ドルで売れたんです。その瞬間は初めてアートでお金を稼いだんだという実感と、こんな自分でもやっていけるかもしれないという嬉しさが込み上げてきました。声をかけていただいた方には本当に感謝しています。
世界最高峰の環境で学ぶために意識して取り組んだこと
ードバイのアートフェアで貴重な経験をされ、大学を卒業後どのような経緯で大学院に入学されたのでしょうか?
大学在学中に、メディアアーティストのSputniko!さんの講演をお聞きする機会がありました。目の前で紹介して下さったプロジェクトや作品を拝見し、社会課題や技術を作品テーマに多分野のスペシャリストと協働で作品を作り上げる制作スタイルがとても新しいと感じました。
彫刻から映像作品まで、一人で作り切ることにこだわらず多くの人を巻き込んで良いという点は目から鱗でした。Sputniko!さんのような方を輩出した環境に興味が湧き、調べてみるとRCAの出身だとわかりました。
ー運命的な出会いですね。RCAのことはご存知だったのですか?
いえ、お恥ずかしながらRCAの名前も知りませんでした。Sputniko!さんのおかげで調べるうちに、アート・デザイン分野で世界1位にランクインする大学院だと知り、敷居の高さに衝撃を受けました。当時、スコットランドの大学に通っていたので、数時間電車に乗ればRCAのオープンデーに参加できる環境だったんです。そこですぐにオープンデーに登録して、ロンドンに向かうことにしました。
RCAに到着すると、スタッフの方が名門らしからぬフレンドリーさでとても安心しました。ただし、ホッとしたのは説明会の会場に入るまででした。円形のホール会場に入ると、シアター形式の教室にびっしりと人が座っていました。しかも隣に座っていた人は、大学院の入試説明会にわざわざアメリカから来ていたんです。まだ何も始まっていないのに、すでに国を越えて参加している志望者の熱量に圧倒されてしまいました。正直とんでもないところを志望してしまったと思いました。それに、志望者も有名な海外の美大出身の方々ばかりで心が折れかけましたね。
ホールでの説明会のあと、学部別の見学でお話しさせていただいた教授がとても気さくな方でした。その先生が今の指導教員なので、RCAを受験してよかったと思います。
進学先候補を絞る中では他の大学院も検討した。写真は見学で訪れたハーバードデザインスクール |
ーRCAでしか出会えない方や教育の良さを感じられたのですね。
まさにそうですね。ニューヨーク現代美術館(MoMA)にプロフィールがあるような作家が学部長なので、このような第一線で活躍する方と定期的にオフィスアワーで話せるのはすばらしい環境だと思います。
ー世界最高峰の環境だということが伝わります。先ほど自信を失いかけたとおっしゃいましたが、どのようにして合格まで辿り着けたのでしょうか?
入学前に大学院の特色を知ることができたのは大きかったですね。きっかけはSputniko!さんだったのですが、彼女のプレゼンテーションを通じてRCAががどのような人材を輩出しているのかが伺えました。卒業生をみれば、大学院が理想とする人材や、大学院がどんなテーマをもって運営されているかを想像するきっかけになると思います。
私の場合、オープンデーに参加し、教授と直接お話をして学科の雰囲気を知ることができたため、志望の学科が自分にマッチしているかも確認できました。卒業生やオープンデーから受けた刺激は志望動機を書くモチベーションになりましたし、ポートフォリオの構成を考える上でも参考になりました。
ー行きたい大学を理解したうえで、いかに自分とマッチするかを表現に落とし込むことが大事なんですね。
そうですね。海外の大学に興味がある方は、最近オンライン説明会もあるので諦めずに行きたい大学に挑戦してほしいです。
アートとデザイン双方の視点を持って作品を作り続ける
ー鈴木さんにとって、作品を制作する過程で一番楽しい瞬間は人に喜んでもらうことでしょうか?
そうですね。作品を見てもらって「あの作品が好き」だと言ってもらえたり、作品を購入してもらったりするときに達成感と喜びを感じます。制作中はグッとくるものが出てくるまでああでもないこうでもないとエネルギーを使うので、辛い割合の方が大きいです(笑)。作り始めが一番負荷が大きく、完成手前は逆に一気に作りきりに行きます。
ー制作初期段階は辛くても、作ったあとの喜びの大きさのほうが勝っているから作り続けられるのですね。
そうですね。おそらく発想するときに必ず乗り越えなければいけない辛い時期と、完成手前のランナーズハイ状態が交互にくることは、作品制作の醍醐味だと思います。ある意味このルーティンが楽しくなるように条件付けされています。また、見ていただいて嬉しい反応をもらえる経験があれば、より制作を続けるエネルギーになりますね。
ー素敵ですね。作品制作はどういった手法でおこなわれているのですか?
昔は書道作品がメインでしたが、今はペインティングやマイコンボードを使った作品も作ります。大学院の専門はデザインも関わってくるので、特定のメディアや制作スタイルというものがまだないんです。昨年はグループで、プロダクトデザインに取り組みました。一方、大学院外ではワークショップデザインといった形のない仕組みのデザインもしています。
このように、現在はアート作品から無形・有形のデザインまで幅広く携わっていますね。様々な手法に触れていくうちに、向き不向きや好き嫌いで今後スタイルが絞られていくのだと思っています。
ー様々な手法で領域を広げられているのですね。最後に、鈴木さんの今後のビジョンを教えてください。
生涯のテーマとして、アートとデザインの垣根を崩すような作品を作っていきたいです。所属している学科で「サイエンス×アート」「デザイン×〇〇」といった、アートでもデザインでもない場所で何ができるか考える機会がたくさんあります。
国内では、「アートはアート」「デザインはデザイン」と別のものと捉えることが多いのではないかと感じています。一方で現在の環境は、アートとデザインを区別することなく制作するのが当たり前で自分に合っていると感じます。
アートとデザインの際(きわ)が今後崩れていくとしたら、どのような作品やプロジェクトが生まれるのかを想像するとワクワクします。私がイギリスで吸収できた視点を発信し、国内でアートとデザインの垣根を低くするような活動や貢献もできたらいいなと思います。アーティストもデザイナーのように考えますし、逆ももちろんあります。大学院でアートとデザイン双方の視点を伸ばせた経験を活かしていきたいですね。
取材:吉永里美(Twitter/note)
執筆:スナミ アキナ(Twitter/note)
デザイン:安田遥(Twitter)