奥能登で宿泊施設を運営。山口侑香が自分の可能性を信じてチャンスを掴んできた軌跡

木ノ浦ビレッジで働き「仕事ができない」と自覚する

ーザアグラリアンテーブルの前代表と出会ってからのお話を詳しくお聞かせください。

ある日、前代表から「木ノ浦ビレッジで働かないか」とお声がけいただき、新しい環境へ飛び込むかどうするかものすごく悩みました。

そのお話をいただいた半年ほど前に離婚を経験していて、娘を育てていくためにも稼がなくてはいけないという想いと、自分を変えるのは今かも知れないという想い、木ノ浦という土地には昔から馴染みがあるので働いてみたいという想いから、転職を決意したのです。

ー木ノ浦ビレッジで働いてみて、いかがでしたか?

私はずっとサービス業をしていたので接客面で不安はなく、前職で「素直で良い子」とたくさん言われてきたので自分は仕事ができると思っていました。ただ、入社して数ヶ月で壁にぶつかったのです。

例えば、「どうやったらシーカヤックをお客さんに喜んでもらえるか」という問いに対して「これでどうですか?」と言っても、別の良い方法を提案されてしまい、相手を納得させられるだけの根拠を提示できない自分を目の当たりにして落ち込んでしまいました。

前職で「素直で良い子」とよく言われていたときは、自分で何かを作り出すことはまったくなく、ひたすら言われたことを淡々とこなしていたのですが、「私は仕事ができないんだ」と自覚してからさらに価値観が変化していきました。

ゼネラルマネージャーとして、楽しんでもらいたい一心で働く

ー「仕事ができない」と自覚してから、どのように価値観が変化していきましたか?

まずは前代表を見返したい、仕事をできるようになりたいという反骨心が湧き上がりました。

見返すためには自分が成長する必要があり、技術面や能力面では足りない部分があるのを受け入れたうえで「今私にできることはなんだろう」と考えたときに、目の前のお客さんを喜ばせたり、スタッフに楽しく働いてもらったりすることだと思ったのです。

それから周りの目は気にせず、「お客さんに楽しんでもらうこと」「スタッフに楽しく働いてもらうこと」に対して貪欲になっていきました。言われたことだけするのではなく、自分でどんどん考えて実行することに無我夢中でしたね。

ーお客さんやスタッフに良い影響を与えるために、具体的にどのようなことをしたか教えてください。

まずはお客さんの顔を覚えることから始めました。例えばリピーターの方の顔を覚えて、来たことがある方であれば施設に慣れているのでチェックインの際に長く説明せず、「わからないことがあれば聞いてください」と伝えるようにしています。

また、いつもコーヒーを飲んでいるお客さんにはコーヒーのセットをご用意したり、ものを置く場所を変えてみたりするなど、すごく些細なところからですね。

そういった小さな気配りを積み重ねていると、ある日前代表に呼び出されて「8月1日からゼネラルマネージャーとして、現場を任せます」と言われたのです。

不安でいっぱいでしたが、「お客さんがより楽しく、より快適に過ごせるように。スタッフが今までよりも楽しく働けるようにということを考えて動いていけばそれで良いよ」と言っていただいて、安心したのを覚えています。

ーとても大きな転機ですね。

そうですね。ゼネラルマネージャーになってからは楽しいことだけではなく、大変なこともたくさんありました。スタッフ一人ひとりの価値観がある中で、共通認識をもって働くというのはとても難しくて。

相手の立場に立って話すことや、一緒に考えることをとても意識していました。「わからないことはある?」とできるだけ聞くようにしていましたが、それでも認識がずれてしまうときはありましたね。

今振り返ると、つらかったけど楽しかったですし、一緒に働いてる方々に働きやすいと思ってもらえたり、笑顔になってもらえたりすると、やってきて良かったなと思えました。

ー山口さんは、スタッフとの間に壁を作っていないように感じます。

壁は作らないですし、今だけでなくこれからも作りたくないと思っています。

代表として “守る立場” になり、人とのつながりを大切にしていく

ーゼネラルマネージャーになってから、どのタイミングで代表になったのでしょうか。

28歳の頃です。代表になったのには、明確なきっかけがあります。コロナウイルスが広まり始めた時期に、体験の受け入れをしていた団体さんの中に3日ほど前に熱が出た子がいるというのを当日、しかもバスが木ノ浦ビレッジに到着する20分前に聞いたのです。

それを電話で聞いた私は、すぐに判断ができませんでした。そんなときに前代表が出した答えは、「お客さんは受け入れるけど自分一人で対応する。スタッフは全員退去」でした。

前代表に守られていると実感すると同時に、くやしさがこみ上げてきました。そのときに、守られる立場から守る立場になりたいと初めて明確に思ったのです。

守るためには上に上がるしかないと思いました。今まで「いつかお前を代表にする」と言っていただいても本気にしていなかったのですが、くやしさを感じたことをきっかけに「代表になりたいです!」と伝えました。

ー代表に就任してからはいかがでしたか?

私一人では就任できなかったですし、前代表や周りの方々にとても感謝しています。心が折れそうなときに話を聞いてくれたり、数字の見方を教えてくださったり……いろんな方に支えられて、やっとスタートラインに立てました。

代表に就任してちょうど3ヶ月ほど経ち、経験値も能力も足りない中で、「人とのつながりを大切にしたい」という私の願いを周りの方々が尊重してくれています。みなさんのおかげで、今の私がありますね。

ー山口さんの今後の展望についてお聞かせください。

まずは「人とのつながりを大切にする」ことにフォーカスしていきたいです。今の私があるのは人とのつながりがあってこそだと思っているので、楽しんでもらうための活動を続けることでいろんな方々へ恩返ししていきたいです。

また、多くの笑顔を生み出していきたいと思っています。お客さんの笑顔はスタッフに伝わり、スタッフの笑顔は私に伝わるように、すべてつながっているんですよね。

「笑顔」「人とのつながりを大切にする」をキーワードに、ザアグラリアンテーブル合同会社をもっと成長させていきたいと思っています。

ー最後に、29歳以下の方たちに向けてメッセージがあればお聞かせください。

自分の可能性を信じてほしいです。私自身、できない自分を受け入れたくないときはありますが、成長し続けたいという意志があるのであれば、そんな自分を受け入れたうえで可能性を信じてほしいと思います。

また、チャンスはすべての人に平等に訪れているので、それをチャンスと思うか思わないか、そのチャンスを掴みに行くか行かないかというのは、私自身常に意識しています。

社長にならないかという話も、冗談だと受け流して自分の意志で「なります」と伝えていなければ、今の私はいないですよね。なので、みなさんには自分の可能性を諦めずに、貪欲にチャンスを掴んでいってほしいです!

ー実際にチャンスを掴んできた山口さんのお言葉、とても説得力があります。本日はありがとうございました。山口さんの今後のご活躍を心よりお祈りしています。

取材:とも(Twitter
執筆:もりはる(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter