「後押しできる存在へ」役者、教師、チアを経て築いた藤本愛祈の軸とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第606回目となる今回のゲストは、藤本 愛祈(ふじもと・あき)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

アメリカンフットボールの社会人クラブチームで、専属チアリーダーのキャプテンを務める彼女。「後押しできる存在になりたい」と語る彼女は、どのように軸を育んできたのでしょうか。これまでの経験から、自分の存在意義についての考えや挑戦するための秘訣まで幅広くお話を伺ってきました。誰かを励ます存在になりたい人へ、藤本さんのメッセージを届けます。

選手とともに戦うアメフトチアキャプテン

ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

はい、アメリカンフットボールの社会人クラブチーム・オービックシーガルズの専属チアリーダーとして活動している藤本 愛祈と申します。普段は民間企業に勤務しているかたわら、社会人チームのチアリーダーとしてメンバー全員と試合を盛り上げています。

ー藤本さんが感じる、チアリーダーチームの役割を教えてください。

わたしたちは、パフォーマンスを管轄する「ディレクター」が存在しないチアリーダーチームです。そのためメンバーの意見を尊重しながら、観客を巻き込みスタンドを作り上げるためにはどうすればいいか、1から話し合いをして考えます。

どちらかと言えば一般的な応援より、試合に参加して一緒に戦う「参戦」スタイルを採用しています。たとえば、相手チームの集中を妨げるためにわざと大きい声援を送ったり、我々のチームが作戦タイムをするときは静かにしたり、ファンも試合に参加して戦う気持ちを持つことを大事にしています。

ー応援するのも、そのような工夫をされているのですね!キャプテンとしてのやりがいは何ですか?

チアはダンススキル、ショーマンシップ、体型などすべてをそろえている存在だと、わたしは感じています。

現在、12人のチアメンバーが所属していますが、キャプテンとして「観ている人に何か感じてもらえるパフォーマンスか」「場面に沿ったパフォーマンスになっているか」メンバー1人ひとりへの具体的なアドバイスやフォローを心がけています。

ーパフォーマンスの考案からメンバーの管轄まで。お話を聞く限り、やることが多いなという印象ですが、個人の練習はいつ行なっているのでしょうか?

週に2回、メンバーが集まる全体練習以外にほぼ毎日の自主練習は欠かせません。毎朝トレーニングジムへ行き、体型と体力を維持できるように努めています。

また、チアリーダー=人を元気付ける存在とイメージしていると思いますが、それをどんな場面でも発揮するために自分自身のマインドをコントロールすることも重要です。どんな状況も前向きに捉える姿勢を大切にし、日々物事に向き合っています。

舞台を経験して得た「誰かを勇気付ける」ということ

ー藤本さんのこれまでについてお伺いします。どのような幼少期でしたか?

当時9歳のころ、地元で募集されている市民ミュージカルに参加し、舞台好きな幼少期を過ごしていました。はじめは母の勧めで挑戦したのですが、実際に演じることの楽しさに気づき、目の前の観客を楽しませることをやりがいとして感じていましたね。

役者だけではなく照明や脚本作りも携わることがあり、「物語全体のメッセージをどのように伝えていくか」と頭をつかうことも。この経験は、現在チアリーダーとしてパフォーマンスを作る上でも活きています。

自分が踊って満足ではなく、試合に来てくれた観客へどう感じてもらいたいか」全体を俯瞰する力も、舞台裏の活動が活かされていますね。

ー舞台を経験してみて、どの役割が「自分に合っていたな」と感じていますか?

どちらの経験も楽しかったですね。多くの観客に喜んでもらえたのは、とても嬉しかったです。しかし、2011年3月11日。東日本大震災が発生し、同年7月に被災地公演として宮城県石巻市を訪れたときに、役者としての自分の存在意義を考えたときがありました。

当時の石巻市は、建物の3階に自動車が突き刺さっていて、依然復興が進んでいない状態でした。実際にこの目で被害の恐ろしさを見たとき、「自分に何ができるんだろう」と虚無感を覚えましたね。

ーこれまで感じていたやりがいが通用しない感覚だったのですね。実際に出演されたあとはいかがでしたか?

はい。幼稚園や介護施設を複数回周ったのですが、その中でも公演を見てくださったおばあさんの「あなたの笑顔で明日も生きられます」という言葉が今でも心に残っています。

虚無感を覚えながらも「今、ここでわたしにできることは何だろう?」と考えた結果、自分のできる全力のパフォーマンスを通して石巻市の人々を勇気付けることでした。実際、1人のおばあさんの心に届き、少しでも明日からの生きる力を渡せたこの経験は、その後の自分の人生に大きな影響を与える経験でした。

教師として、子どもたちの成長を支援したい

ー藤本さんの人生にとって、舞台の経験は大きいですね。そのあとの進路にも影響はあったのでしょうか?

高校3年生まで舞台を続けていたのですが、腰を酷使してしまい舞台の道を諦めることに……。これまでの経験を通じて「わたしは何ができるのか」と自問したとき、改めて誰かを後押しできる存在になりたいと強く思ったのです。

大学では教職を取得できる学部に進学し、卒業後はNPO法人Teach for Japanで小学校の先生として勤務しました。活動の1つとして採用されたのが「プロジェクトベースドラーニング」と呼ばれるプログラム。先生が一方的に教えるのではなく、子どもたち自ら授業を作り上げる取り組みは、教育面で誰かを後押しするきっかけになりました。

ー面白い取り組みですね。具体的にどのような授業作りをしたのか教えてください。

「自分の住んでいる市で発生したゴミを年間で◯グラム無くすための解決策」を考え、実施する授業を展開しました。子どもたちは啓蒙活動として公共施設にポスターを貼りにいったり、もう使えなくなった文房具を海外へ送ったり、自分たちなりに考えた解決策を実行していました。

子どもたちが一生懸命考え、問題解決を目指す。その過程を支援していくためにはわたし自身、教師としてどう成長していくか、考えさせられましたね。

ー藤本さんが求める教師像は、どのような先生でしょうか?

そうですね。学生時代に教育実習でお世話になった小学校では、元競輪選手として活躍されていた人や、民間企業で数字を追っていたバリバリの元営業マンなど、経歴がさまざまな先生に出会いました。

その人たちの共通点は、多角的な意見を子どもたちに語れること。一面的な考えを持たないからこそ、生徒1人ひとりの意見を尊重することができるのではないかと気づいたのです。

具体的に求める教師像を描いたからには、今後どのようなキャリアを選べばいいか。わたし自身の将来を大きく考えるきっかけでもありました。その結果、教師2年目でアメリカンフットボールのチアに挑戦したのです。

誰かの挑戦や成長を後押しできる存在へ

ー大きな挑戦ですね!それまでアメリカンフットボールはご存知でしたか?

実は学生時代にアメフト部に所属していました。スタッフとして戦略分析を担当する部門に所属し、活動するうちにアメリカンフットボールにすっかり魅了されてしまいました。

「社会人になってもこのスポーツに関わりたい」と思い、見つけたのがチアリーダー。形は違えど、これまで大切にしてきた「誰かの挑戦を後押しする」ことができるポジションだと感じ、オービックシーガルズの専属チアリーダーメンバーに応募。晴れてオーディションに合格し、現在に至ります。

ー思い切った決断のように感じますが、どのように決断されたのか詳しく聞かせてください!

わたしはこれまで、何か物事に挑戦するときは2つの軸を持っています。「キャリアや計画性を持って取り組むこと」「好き、ワクワクする気持ちが湧くこと」です。

将来を考えたらどうしても前者を優先しがちですが、後者の純粋な気持ちも大切にしています。舞台や教師、チアに挑戦するときも自分の気持ちに耳を傾けてきました。その結果、自分が没頭できることで誰かの挑戦や成長を後押しする存在になりたい気持ちが芽生えてきたのです。

ーこれまでの経験が「だれかを後押ししたい」という藤本さんの目標に変わっていったのですね。最後に、今後の展望についてお伺いしてもいいですか?

将来は、アメリカンフットボールの最高峰リーグと言われているNFLで、日本のチアリーダーとして挑戦したいです!アメリカでは、チアリーダーが女性のロールモデルと呼ばれるほど、活躍しているポジション。周囲からの認知も高いので、日本以上の経験ができるのではないかと期待しています。

この夢を叶えるためにも、一旦教師の道に区切りをつけました。誰かの挑戦や成長を後押しできる存在になれるようまずは自分自身が挑戦、成長していきたいと思います。

ー今後の活動を応援しています!ありがとうございました。

取材・執筆:田中のどか(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter