服に関わる人や地球の課題解決を。デザイナー安野広大に学ぶチャンスの掴み方

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第512回目となる今回は、ファッションデザイナー、染色アーティストの安野 広大(やすの・こうだい)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

ファッション業界の課題解決に向けて、自身のブランド「KODAI YASUNO」を立ち上げた安野さん。現在は服の廃棄をなくすための一つの手段として染色をおこなっています。いくつものチャンスを掴んできた安野さんに、チャンスの掴み方や今後取り組んでいきたいことを伺いました。

大好きな服に関わる人たちが幸せになる世界にしたい

ーはじめに、自己紹介をお願いいたします。

安野広大と申します。KODAI YASUNOというブランドを立ち上げ、唯一無二の染色アイテムの製造・販売をおこなっています。元々はシルバーアクセサリーの製造・販売から始まったブランドですが、現在は新たなブランド立ち上げも進めております。

ーブランドを立ち上げたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

僕自身は服が大好きなのですが、ファッション業界には服の廃棄や労働環境など様々な問題があります。これらの問題を解決するためにブランドを始めました。特に「服の廃棄をなくす」ために、最初は着られなかった服や捨てられるはずだった服を解体して、そこからまた新たな一着をつくろうと思っていたんです。ただリメイクのスキルがまだなかったので、染色から始めることにしました。

ーファッション業界の問題がきっかけだったのですね。それらの問題はどのようにして知ったのですか?

服飾の専門学校の授業で、ファストファッションが地球に与える影響や労働環境問題などを知り、そこから自分でも調べるようになりました。

ー知った当時は、自分が解決しようという気持ちが強かったのですか?

最初知ったときは、解決したいという気持ちよりもショックのほうが大きかったです。なぜなら僕自身、服のおかげで人生が変わった経験をしてきたので、ファッションに対する尊敬や崇拝の気持ちが強かったから。ファッションは人を幸せにするものだとしか思っていませんでした。でも実際には、地球や人間に負の影響を与えている側面があることを知って辛かったです。そこから自分はどう生きていくべきなんだろうと考えたときに、これらの問題を解決するために生きると決意しました。

夢を諦めずにファッションデザイナーになることを決意

ーここからは、安野さんの過去に遡ってお伺いします。先ほど服で人生が変わったとおっしゃっていましたが、それはいつ頃の出来事だったのですか?

最初に感じたのは中学2年生のときです。それまでは服に全然興味がなかったんですけど、いとこにコーディネートをしてもらったら、周囲から「かっこいい!」と褒められて。服装だけでこんなにも変わるんだと気づきました。その経験がきっかけで少しずつ服に興味を持ち始め、服装にこだわるようになったのが原点です。

ー大学4年生のときに、人生の進路に関わる転機があったそうですが、詳しく教えてください。

大学の先生のご紹介で、出版社の社長と知り合う機会がありました。その方は、12人の「おさむ」という名前を集めた本、『おさむ辞典』を作ろうとしていて、僕たちに大学生目線で書いてほしいと依頼をしてくれたんです。僕は、鈴木おさむさんについて執筆することになりました。

ーとても興味深い本ですね。この執筆活動でどのように変化していきましたか?

執筆時はちょうど就職活動中だったので、自分について深く考える時期でした。鈴木おさむさんについて書くにあたって読んでいた本のなかに『天職』(秋元康・鈴木おさむ 著、朝日新聞出版、2013年)という本があって。そこには、「夢があるのにやらずに諦めるのはもったいない」と書いてあったんです。「やってみてダメだったら諦めればいいし、うまくいけばそれでいい」という言葉に感銘を受け、改めて自分が何をしたいのかを考えました。

その本を読むまでは、商品企画の仕事に携わりたくてメーカーを志望していましたが、やはり好きな服を自分でつくれるようになりたかったんです。やはりファッションデザイナーの夢を諦められず、翌日には専門学校の入学手続きをしました。

ー決断からのスピード感がすばらしいですね。決断する際はロジカルに考えるのか、それとも直感的に決めるのでしょうか?

僕はいつも直感で決めます。考えすぎても動き出しが遅くなってしまうし、やってみないと答えは出ないと思っているので。直感で決めて、失敗したら失敗したでいいや、そこからなんとかしようという精神で決断しています。僕は追い込まれた状況が好きなんですよ(笑)。追い込まれたときこそ、人間が進化するときだと思っています。

縫わない服づくり、発展途上国の労働環境をよくすることが使命

ー23歳のときに、自分のやるべき使命を認識したそうですね。

はい。服の廃棄をなくすために自分はどうすればいいのかをずっと考えていました。問題の原因を辿っていくと、新品の服の約60%が着られないまま焼却処分で廃棄される事実を知って衝撃を受けました。なぜ新品の服は捨てられなければならないんだろうと考えたときに、ブランドのイメージを守ることや在庫を抱えるとお金がかかるといった理由がありました。また、一度縫製された服を解体してリメイクするのは大変だし、縫製するとミシンの跡も残ってしまう。それなら、服を縫わずに作って、何かの条件を加えることで簡単に着脱可能な技術をつくることができれば解決できるのではないかと思ったんです。

ー「縫わない服をつくる」。おもしろい発想だと思いました。

僕はファッション業界で、縫わない服を服づくりのスタンダードにしたいと思っています。今はまだ、服を縫ってつくるのが常識ですが、数十年後には裁縫以外で服をつくることが当たり前の世の中にしたい。その技術を確立して特許をとることができれば、次にその資金で服づくりに関わっている労働環境を改善していこうと考えています。発展途上国に工場をつくり、安全に住める住居や食事、そして教育を無償提供できる環境を整えることが最終的な使命ですね。

ーかっこいいです。縫わない服づくりの方法の一つが「染色」なのですね。染色をやり始めたきっかけを教えてください。

サークルの合宿で、班のグッズをつくる際に染色をおこなったのがきっかけです。それからしばらくやっていませんでしたが、服の廃棄をなくしたいと先輩に相談したら、染色を勧めてもらいました。周囲にヒアリングしても、飽きて着ないまま家に眠っている服や、シミがついて捨てられている服が多いことを知って。当時はまだリメイクできるスキルがなかったのですが、染色だったらできるかもしれない。捨てる前に染めて新しい服をつくれば、もう一度その服を着てくれるかもしれないと思い、染色での服づくりを本格的に始めました。

ー染色には天然の染料が使われているのですか?

現在は、化学染料を使用しています。ただ、実は染色も地球に負担をかけてしまっている面があるのは事実です。まずは100%オーガニックで、廃棄される食材を使用した染料を開発したいです。天然の染料をつくるには、膨大なコストや手間がかかります。それらをもう少し抑えられるようになれば、天然の染料がさらに広まっていくのではないかと考えています。

ー染色の色決めはどのようにおこなっていますか?

僕の場合は、街中で見かける服、広告、自然などを観察して色を決めるようにします。目に入ってくるものすべてに色があるので、そういったところから自分がいいと思う色の組み合わせを見つけて商品に落とし込むようにしています。

チャンスそのものに気づき、いかに早く掴めるかが大事

ー24歳でブランドを立ち上げられたそうですが、立ち上げまでの背景を教えてください。

大学4年生のときからブランドを立ち上げようと思い、専門学校にも通っていたのですが、やはりいろんな賞を受賞されている方々と同じようにやっていくのは難しいと感じて。そこでオンライン集客で勝負しようと考え、Webマーケティング会社に就職しました。

27歳でブランドを立ち上げようと思っていましたが、ある日いきなり歩いているところを男の人に呼び止められて、「おしゃれですね」と話しかけられたんです。連絡先を交換したところ、ブランドを立ち上げたアーティストの方でした。そのとき直感的に、この人と将来ビジネスで何か一緒にできるかもしれないと思いました。

半年後にその方と再び連絡をとる機会があり、意気投合して頻繁に会うようになって。「会社を辞めてブランドを立ち上げなよ」と後押しをしてもらったのがきっかけです。僕自身もやるなら今しかないと思い、ブランドを立ち上げることにしました。

ーその方との出会いやタイミング、決断に至るまでが激動だったのですね。今しかないと思って立ち上げたのも、やはり直感で決断されたのですか?

今考えると、完全に見切り発車で親にも反対されましたが、それでも最後は自分の直感でした。アーティストの方が立ち上げたショップでマネージャーの仕事をしながら、自分のブランドをつくることにしました。

ー安野さんは次々にチャンスを掴んでいるイメージがありますが、チャンスを掴み取るコツや大事にしていることはありますか?

大事にしていることは二つあります。一つ目は、チャンスそのものに気づけるかどうか。「チャンスがほしい」と言う人は多いと思いますが、実はすぐ目の前にチャンスは来ています。それなのに気づいていない人が多い。チャンスに気づくには、とにかくいろんな経験をして、どれがチャンスなのかを知ることが大事です。目の前にあるものは全て飛びついて、これはうまくいった、これはうまくいかなかったと経験を通して学んでいく。そうすると、自分にとって大事な出来事や出会いなのかを感じ取ることができます。チャンスに気づける判断基準をつくることが大事です

もう一つは、チャンスだと思ったらすぐに掴むようにすること。悩んでいる間にチャンスは消えてしまいます。チャンスが目の前に来るのは一瞬なので、前のめりでスタンバイできるようにしておくといいと思います。

ーとても参考になります。今を生きるうえで、大切にしていることはありますか?

僕はスーパーポジティブなんですよ。基本的にすべてをプラスに捉えるようにしていて。だから失敗も自分の成長の糧だと考えると挑戦することも怖くないし、失敗も恐れません。仕事でどんなに忙しくて辛くても楽しめる。すべてをプラスに捉えて、自分の成長のためだと思うことを大事にしています。

ーとても素敵な捉え方だと思いました。ブランド立ち上げ直後に使命を見失いそうな出来事があったそうですが、どのように乗り越えましたか?

自分のブランドの商品が売れず、プライベートでも出費がかさんでしまうことがありました。そのときに単発のバイトなどを始め、一日中寝ずにアルバイトをする生活を続けていたら、なんのためにブランドを立ち上げたのかがわからなくなってきて…… 完全に自分を見失ってしまいました。お世話になっている先輩のおかげでやっと目が覚めて。そこから自分のブランドに集中して、もう二度とバイトはしないと決断しました。

ーその決断をすることでピンチをチャンスにし、成長してきたのですね。

はい。どうすればブランドを拡大して販売できるのかを考え、できることはすべて試しました。その結果、売り上げが何百倍にもなり、今は順調に売れている状況です。僕は追い込まれないとやらないタイプなんですよ。ちょっと怠けてきたと思ったら、販路拡大のための投資をおこない、次の売り上げにつなげていく。あまりおすすめしませんが、この方法が自分に一番あっているのかもしれません。

まずはやってみて、失敗したらそこから考えて行動すればいい

ー最後に、U-29世代に伝えたいことや安野さんの今後の展望をお聞かせください。

僕の世代で会社員として仕事を頑張っている方のなかには、「この先の人生どうしよう」と悩んでいる方も多いかもしれません。でも、悩みすぎずに楽観的に考えて、できることからまずはやってみることをおすすめします。いろんなことをやっているうちに見えてくるものも多いと思うので。まずは行動して、そこで見えてきたものから考えてみて、また行動するというサイクルを早くまわせば答えは出てくると思います。

僕自身も、常に新しいことに取り組まないといけないと思っているので、新しいブランドの立ち上げやブランド拡大も引き続きおこなっていきます。それに、将来的には天然オーガニック染料や縫わない服づくりの開発、さらに発展途上国に楽園をつくるところまで頑張って実現させます。僕の頑張りをみなさんにも見ていただけるとうれしいです。

取材:松村ひかり(Facebook / Instagram / Twitter
執筆:スナミアキナ(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter