「あなたらしい向き合いかたを」社会問題について取り組む女性・田端有香の考えとは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第572回目となる今回のゲストは、田端有香(たばた ゆか)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

株式会社Ridilover(リディラバ)にて、社会問題を取り扱っているオンラインコミュニティを運営する彼女。「学生時代に経験したスタディツアーが現在のキャリアの軸になった」と話す彼女はどのような人生を歩まれてきたのでしょうか。地元・沼津への思いから現在の取り組みまで幅広くお話を伺ってきました。

社会問題を考えるコミュニティ・リディ部の取り組みについて

ー田端さんの現在ついて、教えてください。

社会問題を取り扱っているソーシャルベンチャー企業・株式会社Ridilover(以下、リディラバ)に勤務しています。職種は、社会問題について議論し合うオンラインコミュニティ・リディ部のコミュニティマネージャー。参加者が「自分らしい社会問題の向き合いかたってなんだろう」と考える場にできるよう、管理・運営に専念しています。プライベートでは2歳半の息子がいて、仕事と家庭の両立に励んでいます。

ーリディ部はどのくらいの頻度で開催しているのですか?

運営が主催している勉強会は週に3回、水曜から金曜の夜に開いています。それ以外にもリディ部のメンバーによる自主企画も毎週のように開催しており、オンライン上でも活動が盛んです。

イベントは、トランスジェンダーの当事者をゲストに呼び、これまでの暮らしについて取材をしたり、社会問題について事業を起こしている人のこれまでのプロセスについて座談会を開催したり、日によってさまざまです。

ーお話を聞く限り、社会問題についてテーマが尽きることなさそうですね。

そうですね。参加者には真剣に社会問題に取り組みたい人もいれば、ビジネスを立ち上げようと考えている人もいる。一方で社会問題の取り組みについて知ることで知的好奇心が満たされる、少しだけ興味がある人もいて、メンバーの意識もそれぞれです。

リディ部は「わたしらしく社会問題に関わろう」とテーマにしているので、必ずしもなにかを立ち上げようとする必要はありません。しかし現在のように、部内の活動がこれほど活発になると、運営側も大変嬉しく感じますね。

フィリピンの経験から湧き上がる地元への思い

ー社会問題について取り組んでいる田端さん。学生時代について聞かせてください。

わたしは静岡県沼津市出身で、東京の大学に進学するまで地元で普通の生活を送っていました。

国際関係の学部に進学してからは、海外について学ぶ日々。しかし周囲の友人は、高校時代にヨルダンの学生会議に参加した、東南アジアで現状を目の当たりしたなど、わたしに比べて海外経験が豊富でした。経験の違いに焦りを感じ始め、大学2年の夏休みに1週間フィリピンへ渡航しました。

ー初めての海外でフィリピンへ!どのような経験をされたのですか?

大学生協で募集が主催しているスタディツアーに参加し、ライフラインが乏しく自給自足をしている現地の生活に触れました。インフラや医療体制も整っていない島国の生活でも、人々は工夫をしながら暮らしている。日本ではお金を出せばいくらでも揃いますが、彼らと交流して「経済的な豊かさがすべてではない」と感じましたね。

これまでの人生で感じたことない感覚を得て、スタディツアーの仕組みに興味を持ち始めたのもフィリピンの経験からでした

ー海外に触れたら日本の豊かさを痛感すると言いますよね。1週間のフィリピンを経て、日本に帰国してからはいかがでしたか?

渡航前は自分が解決したい問題が見つかると思いましたが、実際そこまで見つかりませんでした。ただ、海に囲まれている島国を見て故郷の沼津を思い出したのです。

さかのぼること2011年。わたしが大学に入学をした年が、ちょうど東日本大震災が発生した年でした。東北地方で起きた津波の映像をテレビで見たとき、一瞬にして街が飲み込まれる様子に恐怖を覚えました。

「もしかしたらわたしが生まれ育った沼津も、津波がきたら無くなってしまうかもしれない」

フィリピンから帰ってきてからその気持ちが強くなり、地元を盛り上げたいと沼津に思いを馳せていましたね

ー東日本大震災の記憶が、田端さんのネクストアクションに繋がったのですね!

地元に何かしら関わりたいと思っても、東京で暮らしている以上、限界がありました。そこでまずは観光まちづくりに携わろうと、学生団体に所属したり友人と一緒にコンペに参加したり経験を積みましたね。あとは東日本大震災の翌年から、ボランティアやフィールドツアーに参加。自分の知見を広げたい気持ちで、学生時代は積極的に行動していました。

大学4年次、就活を終えてからは沼津に拠点を移し、地元を盛り上げることに専念。地元のために一役を担えたと、達成感を感じましたね。

働く軸を決め、今後のキャリアについて模索する

ー大学を卒業されてからのキャリアについて教えてください。

フィリピンの経験から、旅行業界を中心に就職活動を進めていました。スタディツアーを展開している、もしくは地方や地域の観光ツアーに特化している会社を軸に選考を進め、結果的に国内ツアーを展開している会社に入社。企画から添乗までを担当し、多忙な業務でも旅行を楽しまれているお客様を見て、やりがいを感じていましたね。

本業のかたわら、「自分のキャリアってなんだろう」と模索をしていた時期もありました。副業やプロボノという働きかたを知り、自分のなかで少しずつ興味が湧いてきたのです。真剣に悩みながら、次のキャリアを歩もうと考えをシフトしていきました。

ー新卒で入社した会社で働き続け、田端さんのように「このままのキャリアでいいのか?」と悩む人も結構いると思います。キャリア転換を真剣に考えるのも大事ですよね。

結局、2年半勤務した旅行会社を退職し、現在のリディラバに転職したのです。中学・高校生向けの教育旅行を展開している事業内容に惹かれ、スタディツアーを企画する部署で、第2のキャリアをスタートさせました。

ー田端さんにとってリディラバは、就職活動で大事にされていた軸に合った会社でしたか?

スタディツアーをライフワークにしたいと学生時代から考えていたので、リディラバは適した会社でした。こちらでは具体的に、社会事業に取り組まれている企業やNPOに対し、学生の受け入れ依頼や学校側への企画を担当。前職同様に企画から当日の運営まで任され、仕事を通じて学生が新しい経験をするのを目の当たりにしていましたね

ーお話を聞く限り、「学生」へ向けた思いが感じられたのですが、それは過去の経験が通じているのでしょうか?

そうですね。大学生時代に「もし海外の経験があるならば、同じことを学んでいてもその先の想像力が広がるな」と感じていました。中学や高校生のときから海外と触れるなど、さまざまな越境体験をする機会があれば、きっと想像力が豊かな大人へと成長すると思います。そのような学生を増やしたいと思ったことが、スタディツアー事業を始めたきっかけですね。

社会問題の関わりかたは人それぞれ。あなたらしい向き合いかたを

ーリディラバで働き、27歳のときに出産をされたのですね。

はい。弊社では産休・育休に関して、会社とわたしで協力し合いながら体制を整えていました。給付金制度についての説明や復職の相談など、出産を前向きに捉える姿勢は大変ありがたかったです。

育休を経て復職をしようとしたタイミングでコロナ禍に見舞われ、テレワーク中心の生活へ。夫も在宅勤務でしたので、家族3人で過ごせた時間はわたしにとってかけがえのない時間でしたね。

ー出産、育児、復職と経験したあとで、リディ部のコミュニティマネージャーへ就任。田端さんにとってやりがいは何ですか?

そうですね。やはり部内のメンバーが同志となりアクションしてくれるのは、会社としても支えになってきます。勉強会に参加しているメンバーのなかには学生もいて、なにかしらの形でその人の価値観が変わるフェーズに寄り添えていることが嬉しいですね。そういった意味では、学生時代からの「スタディツアーに携わりたい」というキャリアの原点に叶えられています。

ー最後に、社会問題の関わりかたについてU-29世代へメッセージをお願いします!

よく若い人から「社会問題を考える時間がない」「課題解決に向けてなにもできない」と言われるのですが、自分らしい関わりかたでいいのではないかと思います。考える内容も身近にある話題、たとえば「代替肉を調べてみる」でも社会問題に向き合っていると言えるのです。人生を捧げる必要はありません。あなたらしい取り組みかたを始めてみましょう。

ー今後の活動を応援しています!ありがとうございました。

取材・執筆:田中のどか(Twitter / note
デザイン:高橋 りえ(Twitter