好きなことに一途に生きる 見習い庭師 松本 和記の生き方とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第447回目のゲストは見習い庭師の松本 和記さんです。庭師の見習いとして7年目となった松本さんに、庭師の仕事の魅力や今後の展望についてお聞きしました。

 

ーまず簡単に自己紹介をお願いします。

庭師の見習いをしている松本です。
見習いを初めて7年目のペーペーですが、長崎で見習いをしています。ゆくゆくは地元・宮崎に戻って、独立をして日本や世界で庭を作って行けたらと思っています。


ー見習いは7年続けるものなのでしょうか。

見習いは本来、5年か6年で終わりだったのですが、コロナ禍の影響もあり、独立を1年伸ばして、7年目の見習い生活を送っています。30歳で独立をしたいとは思っていたものの、中途半端な形で独立しても嫌だと思ったので、見習いを続けています。


ー庭師、造園業という職業に触れる機会は普段の生活内では多くないかと思いますが、松本さんはどういったきっかけで興味を持ったのでしょうか。

親の影響で自然が好きで、家の木を切ったり、花を植えたり、遊びに行くのも海や山・川だったということで、幼い頃から自然が身近な存在にありました。


ー東京の現場も担当した経験があるとお聞きしました。東京の方が庭師の需要が高いかと思ったのですが、どういった需要があるのでしょうか。

個人邸から幼稚園の園庭などを庭づくりでは行っています。あとは、イベントの会場に緑を入れて設営したり、結婚式のウェルカムスペースのデザインをしたりしていますし、道路沿いの街路樹の伐採もしています。

幅広い仕事ができる分、覚える仕事量は多いので、一生かけて技術を身につけていく必要があると感じています。大変さをイメージされるかもしれないですが、わたしはそれが楽しくて庭師をしています。


ー決まったことをやるよりも、自分の中で考えながら仕事をする方が楽しいですか。

技術が身に付いていく様子が分かるのが良いなと思っています。


ー形ないものを作り上げていくことに、やりがいを感じているのでしょうか。

今は、会社のアイデアを自分で実現していく段階ですが、
将来的には自分で考えたアイデアを自分で形にしていけたらと考えています。


ー与えられたものを形にしていくことの方が楽な気がするのですが、松本さんはゼロから形にすることの楽しさをどこで学んだのでしょうか。

プラモデルを作り方の手順書を見ずに作り始めてしまうような幼少期だったので、
そういったルールに縛られない性格だったことが大きかったのかもしれません。

つくることが好きだった幼少期


幼少期は普通に過ごされていたと思うのですが、どんな過程で「庭師」という仕事に出会ったのかをお聞きしたいです。

いろいろと作ることが幼少期から好きで、釘などを使わない家具職人や大工さん、さらにはお花屋さんになりたいなと思っていました。それらに共通していたのは、自分で形にする仕事という点で、高校も農業系の高校を選んだり、大学も花屋になるために花専攻を選びました。

その中で、単位を取るために造園の勉強をしなければいけなくなり、そこで庭師が行う仕事の幅の広さに感動し、この仕事を自分の生業にしたいと思いました。


ー中学や高校時代から造園業や庭師につきたいと思われていたのでしょうか?

工業か農業か悩みましたが、工業高校は受からないだろうと考え、花屋を目指すために農業高校に進みました。

当時は普通科の高校に受からないだろうなと想像していましたし、勉強することがあまり得意ではなく、農業高校だと実習が多いイメージがあり、こっちの方が自分には良いと思いました。農業高校に進んで良かったですね。


ー高校の普通科に進んでから将来何になるのかを決める人が多い気がしていますが、松本さんは先にやりたいことが決まっていたのですね。

庭師とは思っていませんでしたが、植物に関わりたいとは当時から思っていました。


ー実際の高校生活はいかがでしたか。

最高でした。最初の課題でスイカを種から育てたのですが、リンゴの皮をむくようにスイカの皮を向いて食べた時の美味しさが今でも忘れられないですね。これが授業なんです。

自分で育てて食べるまでが「作る」ということなんだと思いました。実際、自分が育てた野菜や果樹をお客さんに販売する経験をし、自分が食べて感じたことを踏まえながらお客さんにどう美味しさを伝えれば良いかを高校生ながら考えていました。


ーこの経験が今につながっているんですね。

街を歩いていても、匂いでこの木だと気づいたり、観察をすることが好きになるための大切な材料かなと感じます。なので、植物を扱う人が増えるためにも「作る」経験を生み出したり、身の回りのものを観察する機会を増やすことが大切だと思います。

好きなことをとことんやる


ーその後、松本さんは大学まで進まれたと思いますが、大学はどのような基準で選びましたか。

花を学べるところが少なかったのと、高校の先生からランドスケープの学問を勧められたこともあり、その大学に進みました。


ー進路選択はそこまで悩んでいなかったのですね。

悩んだり、進路に失敗したりということはなかったものの、学力的に厳しいから諦めるという選択をしていたので、逃げの選択をとっていたのかもしれないです。ただ、その選択を悔やんでいるということはありません。

好きなことしか頭に入ってこないので、それをやるしかなくて。自分にとって嫌なことは、なかなか頭に入ってこないじゃないですか。だから、好きなことをとことんすることが大事だと僕は思います。


ー好きなことをできていない人もいると思うんですよね。その点、松本さんはなぜ好きなことができていると思いますか。

今までは、周りに支えられながら、自分の好きなことをさせてもらっていました。
今後独立をした際は、少しずつ自分のやりたいことを広げていけたらと考えています。


ー順風満帆な人生のように思うのですが、松本さんはこれまで何か失敗や挫折した経験はあったのでしょうか。

好きなことばかりしているので、挫折経験はないんですよね。魚釣りをしていて、大きい魚を釣れる寸前で釣れなかったりとか、今の奥さんに一度フラれたことですかね(笑)


ー好きなことがブレなかったり、松本さんの中でブレない軸があったのですね。

気分が落ち込んだときは、近くの海を見に行ったり、魚釣りに行ったりして、自分を落ち着かせていました。

今でも疲れたと感じると、実家の近くの朝日を見るなどして無になる時間を作っています。


ー自然に触れる機会が少ない都心部の人からすると、松本さんのように自然が身近にある人を羨ましく思いますよ。

都心だとタワーマンションや高層ビルに映る夕陽が綺麗なように、街ならではの自然の楽しみ方があると思います。都市部はいろいろな誘惑があるので、自分には合わないと感じていますが、人それぞれに合う環境があると思いますよ。


ー街に自然などないのではと思っていたので、その考え方は新鮮でしたね。

自然が全くないということはないと思いますし、それを感じれるかどうかの差だろうと。


ー話が変わりますが、松本さんは強い軸を持って生きられているとお見受けしたのですが、学生時代の出来事で自身に影響を与えた出来事はあるのでしょうか。

下手であっても続けることが大切だと、幼少期から言われていました。
また、両親から言われて印象的な言葉は、誰かが嫌な思いをするならば自分が嫌な思いをした方が良いということでした。そのため、中学で学級委員長をしたり、高校で寮長をしたりと嫌なな役目を引き受けていました。寮の先生からは自分が寮長になったことで不祥事が起きたと言われましたが、誰かがしなければいけないことを引き受けたことに後悔していません。

わたしはサッカーをしていて、走ることは嫌でしたが、ボールを蹴るのは好きでした。そんなふうに、嫌いなことの中に好きなことを見つけることをずっと続けていたと思います。


ー大学時代は花の道に進んだと思いますが、花ではなく造園を選んだのには理由があると思います。その理由をぜひ教えてください。

花は小さいスペースの中で表現しているのがカッコ良かったり、華やかでキラキラしているのがいいなと思っていましたが、コンクリートが広がっている状態から生み出すことやスケールの大きさ、自然を人間の手で作ることに魅力を感じました。

あとは、キャンプが好きだったこともあって、自分でキャンプ場なども作ってみたいという夢があったことも影響しましたね。庭師が作るキャンプ場に自分の好きが詰まっているのって、カッコよくありませんか。

お客さんの笑顔がやりがいに


ー庭師となって7年ということですが、その中で印象に残っていることはありますか。

庭を作る過程で、土地の骨格を作る段階や石を敷き詰める工程などがありますが、植栽の段階になると場の雰囲気が一変し、木陰ができたり緑が映えたりするので、庭らしくなります。植物が生えるとお客さんの対応が変わりますし、幼稚園の現場のときは完成が近づくにつれて、子どもたちの歓声があがるのが目に見えて分かります。このように、自分たちがやったことにお客さんが喜んでいるとき、この仕事をやっていて良かったと思います。


ー独立後も管理するだけではなくて、自分で庭を作り上げることをしていきたいのですね。

わたしは庭師の仕事をしているのであまり思わないことですが、普通に生活をしている人にとっては、道の木を切っていると道路の片側が潰されてしまったり、通るときに邪魔だと思うかもしれません。嫌われる仕事かもしれませんが、街の景観を保つ上で大切な仕事だと思うので、街路樹の管理の仕事も大事にしたいですし、庭を綺麗にする仕事もしていきたいなと思います。


ー松本さん自身が自然に触れながら生活してきたからこそ、自然に触れることに魅力を感じているのですね。松本さんの生き方を通じて、何か同世代に伝えたいメッセージなどありますか。

将来作るキャンプ場に来てほしいですね(笑)
あとは、朝日を浴びることですかね。これって、わたしが幼少期から続けていることで、海から上がってくる朝日を浴びることで幸福感が増幅されると言われています。

男性は陽が上がる前にスタンバイして、朝日を浴びる。
女性は夕陽の方が幸福感が増幅されるそうなので、夕陽を浴びる。それを一度やってみて欲しいですね。

ー最後に、松本さんの今後の展望を教えてください。

できるだけ多くの人が喜んでもらえる、笑顔になってもらえる庭づくりをしていきたいと思うので、全国どこでも呼んでください!よろしくお願いします。

ーU29としても今後の松本さんの挑戦を応援していきたいと思います!本日は素敵なお話、ありがとうございました。

取材:新井麻希(Facebook
執筆:大庭周(Facebook / note / Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter