経験と個性を活かした、ライフスタイルブランドHinakoSun代表・山野貴絵にとって大事なこと

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第393回はライフスタイルブランドHinakoSunのデザイナー兼代表の山野 貴絵さんにお話をお伺いしました。山野さんが大事にされていることがどうライフスタイルブランドの立ち上げにつながったのか。大学時代の日々を中心に、現在に至るまでの経緯をお話しいただきました。

ゆっくりできる時間を作るきっかけを考える日々

ーまずは簡単な自己紹介をお願いします。

今年の3月に大学を卒業し、現在はライフスタイルブランドHinakoSunの代表、ディレクター、デザイナーを務めています、山野 貴絵です。初めはアパレルを中心としていましたが、現在は器やお茶などを通して人が意識的に毎日ゆっくりできる時間を作るきっかけづくりなどをメインに行っています。

ーHinakoSunを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

1年間大学を休学した際に、毎日のようにサービス業で働いていたのですが、忙しい日々を送る中で幸福度が下がっているなと感じるポイントがありました。そんな時にアルバイト先の隣にあったケーキ屋さんで金曜の夜にお姉さんがケーキを買って帰る姿を見かけたんです。ある人にとっては一人でケーキを買うこと、ある人にとっては一人でカフェに寄ることや、どこかにいくための服を買ったりすることが息抜きとなっていて、それがその人の幸福度をあげているんだなと感じました。一人一人が衣食住を大事にし自分のハッピーポイントを持つのが大事だなと感じたことから、そんなハッピーポイントを見つけるきっかけづくりをしたいと思ったのがきっかけです。

 

社会に出る抵抗から自ら選んだ大学生活

ー現在に至るまでの山野さんのターニングポイントについても教えてください。どのような学生生活を送られていたのでしょうか。

熊本の女子校に通っていたのですが、商業クラスだったため、大学は行かずそのまま就職するのがマジョリティの環境にいました。私は高校を卒業して社会に出ることに疑問と抵抗があったため、大学に進学することに決めました。

ー社会に出ることへの疑問と抵抗についてもう少し教えていただけますか。

学校の先輩など、周りを見ていると3~4年働き、結婚・出産というパターンが当たり前ということが多くて、それとは違う生き方はないのかという疑問や、まだ働きたくないという抵抗、でしたね。

狭い世界にいて、外の人と関わる機会がなかったので自分も先輩や周りの人と同じように就職して結婚・出産をするのか。このまま何もせずなんとなく人生が終わってしまうのかと考えていたんです。簿記や経済、マーケティングの勉強は楽しかったのでもう少し勉強したいという気持ちもあったのでまだ働きたくないと思っていました。

ー大学に進学してみていかがでしたか。

入学してみると、自分が想像していた大学とは正直異なりました。

高校時代に熊本にあった国際交流館のような場所で外国人の方と交流する機会があったことから、語学勉強などにも興味があったのですが、大学には学生団体がほぼなく、留学に行く人やボランティアをしている人なども少ない状況で、またなんとなく4年間が終わってしまうのではないかと危機感を感じました。ちょうど熊本地震が起こった翌年に大学進学したこともあり、日常が当たり前には続かないことを実感していたからも余計、このままでいいのかと感じたのだと思います。

 

好きだった洋服への興味からブランドを立ち上げ

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ーそこからどのような大学生活を送られたのでしょうか。

海外のいくつかの国では爆弾と隣り合わせの人がいたり、韓国では自殺問題が深刻化していたり、日本では相対的貧困が課題となっていたり、と国際問題や社会問題に目がいくようになり、海外ボランティア活動を行っていました。

一方で、人間関係がうまくいかず、大学時代は摂食障害にもなってしまい、課題をただ解決するだけではなく、個人が幸せである状態を作ることが一番大切なことだと感じるようになりました。

ー行われていた海外ボランティアについて教えていただけますか。

初めはフィリピンに、その後タイに行きました。タイでは、山岳民族が暮らしている村にホームステイしたり、多くの民族が自分たちのアイデンティティを大切にしながら共存している環境が日本にない感覚でした。多様性を受け入れあっているのがとても印象的でしたね。

また、日本で開催された日本の大学生と海外の大学生が70人ほど参加する3泊4日のプログラムにも参加したのですが様々な国の人と一緒に過ごして感じたのは、自分の意思を大事にしているのが多いこと。バリ島から来ていた女の子は全く化粧をしていなくて、なぜメイクをしないのか聞いたらその方が自分らしいからと教えてくれました。なんとなく日本では大学に入ったらメイクをする、しなければならないという風潮がありますが、自分の意思でそういった選択をする人がいることがとても新鮮でした。人と違うのはよくないのではないかとそれまでは思ってきた節がありましたが、それ以来、個性は自分の武器ともなると信じて個性を大事にしています。

ーブランドの立ち上げまではどのような経緯があったのでしょうか。

経済格差についてとある教授と話していた際に、フェアトレードタウンとしてファッション業界の裏側を描いた映画の上映会を紹介していただき、その映画を見たのが初めのきっかけでした。服は好きだったのでファッション業界の現実・問題を知って衝撃を受けました。安い賃金で作られている服があること、服を作る過程で有害物質が発生していることなど、知らなかったことがあまりにも多くショックだったんです。

その後タイに行った際に、タイには10部族以上の民族がおり、それぞれに民族衣装があるものの、民族衣装がどんどん廃れていっていることを知りました。特にモン族の民族衣装は刺繍が綺麗でその文化を残したいと思い、服を作りたいと思ったのがブランド立ち上げにつながりました。が、すでにモン族の刺繍の多くは中国やベトナムなどの工場に外注されており、モン族の手刺繍の物は少ない状況でした。現地だからこそ作れるデザインがあるのではないかと思い、いろいろ探しましたが、モン族の手刺繍を取り入れるのは難しく…

結局刺繍は実現しませんでしたが、ご縁があって、ルワンダとタイで服が完成するところまではいきました。にもかかわらず、コロナが流行してしまい、国内でブランド立ち上げに切り替えることとなりました。

摂食障害と海外での経験を活かして、自分らしさを前面に。

ーそんな経緯があったんですね。コロナで大きく方向転換をせざるを得なかったかと思いますが、どのように切り替えられたのですか。

全てが白紙になり、熊本から出られない状況になったものの、コロナを理由に諦めるのはだめだと思い、学業と並行してブランドの立ち上げを進めることにしました。

そのタイミングでMAKERS UNIVERSITYというメンターと呼ばれる経営者の方々が毎月進捗などを一緒に確認してくれる次世代のイノベーターを育成するプログラムの5期生に選んでいただきました。このプログラムを通して、自分の好きな洋服と社会問題をどうやってつなげていくかを考えることに。通常であればマーケットがあるからサービスを作るということが多いですが、自分がしたいことをサービスにするということを肯定してもらえた一年でもありました。自分が楽しんでいればみんなが楽しんでもらえるのでは、とメンターに言ってもらえたことは新しい発見でしたね。

ーブランド立ち上げにあたっては服についての知識も必要だったと思いますが、何か勉強はされたのでしょうか。

縫製のお仕事をされている方のところに行って教えてもらいました(笑)縫製をやったことがなかったのでまずはやってみようと思ったんです。どんなにすごい人もみんな初めは初心者だったのだからと思い、とにかくやり続ければできるようになるのではないかと。

実際服を作るのはとても手間がかかり、大変でした。美術が昔から得意科目で、洋服が好きだったからこそできたことかもしれません。たくさんの工程を経てできた服はとても尊く、洋服を買う時もそれまでは違った視点で服を見るようになったと思います。

ーそこからアパレルブランドではなくライフスタイルブランドとして様々な取り組みをされていますが、その背景も少し教えていただけますか。

服は海外でのボランティア活動がきっかけで実現したことの1つでしかなく一人一人が衣食住を大事にし自分のハッピーポイントを持つのが大事だと感じたことから、そんなハッピーポイントを見つけるきっかけづくりをしたいと思ったのがきっかけです。摂食障害で考えた幸福に過ごすということ、海外で気づいた自分らしくいていいということ、そして自分らしくいることがまた幸福につながるということ。私だからこそできるブランドとして、人がのんびりする工夫を作っていきたいと思ったんです。

ー今後取り組んでいきたいこと、挑戦していきたいことは何かありますか。

どんなに忙しい人でもここに帰ってこればホッとできるような工夫をもっと作っていきたいです。服だけではなく、常に温かい時間を過ごしてもらえるようにお茶会をどう工夫すればいいのかなどもっと考えていきたいと思っています。

「山野貴絵」という人物がこれから作り出す、普通とは違ったファッションや自分らしさを最大限に表現したモノづくりをこれから温かく見守っていただければ嬉しいです。

 

インタビュー:新井麻希(Facebook )
執筆者:松本佳恋(ブログ/Twitter
デザイナー:五十嵐 有沙 (Twitter