起業すれば、自分にも社会貢献のチャンスが生まれる――そう考え、飲食店の売上向上と食品ロス削減のための「リアルタイムクーポンアプリ」を創り出したのは、ドルトン東京学園中等部3年生の堀内文翔(ほりうち・あやと)さんです。
2019年に設立されたドルトン東京学園では、ガイアックスのスタートアップスタジオと手を組んで「ガイアックス特別ラボ起業ゼミ」を開講。その中でアイデアをピッチした生徒のうち、堀内さんが200万円という投資金額を手にしました。
どのようなきっかけでサービスを思いついたのか、なぜ堀内さんのアイデアが200万円を獲得できたのか、そして将来にどのようなビジョンを持っているのか。ユニークキャリアラウンジ特別編として、堀内さんと、ガイアックス スタートアップスタジオ責任者の佐々木氏、ドルトン東京学園の木之下先生にお話を伺いました。
家族で通う飲食店の食品ロスをなくすため、クーポンアプリを開発
――堀内さんが考えた「リアルタイムクーポンアプリ」とは、どのようなサービスですか?
堀内さん:居酒屋やカフェなどの飲食店が、必要なタイミングですぐにクーポンを作って即発行できるアプリです。一般的なクーポンは、多くのお客様にお店に来てもらうため、1ヶ月など長い期限を設けて発行します。しかしリアルタイムクーポンは「客足が減ったときの食品ロスをなくすため」に発行するものなので、発行してから1〜2時間だけ有効なのが特徴です。
――食品ロスにも目を付けたのが素晴らしいと思います。アイデアを思いついたきっかけは何だったんでしょうか?
堀内さん:家族でよく行く「絆(きずな)」というお店で、客足に波があると気付いたことがきっかけでした。タイミングによっては私たち以外に誰もいなかったり、逆に満席ですごく混んでいたりするんです。
そのお店は、余った食べ物を常連客に無料で提供してくれることがあったんですが、本来は売上を上げたいはず。客足が少ないからと売上が減り、食品も無駄になってしまう点に課題を感じ、それを解決したいと考えました。
そして、「処分するくらいならセール価格でも売りたい」と考えるお店側と、「セールをしているなら食べに行こう」と考えるお客側、両者のニーズを満たせるものがあればいいのではないかと考え、このアプリを思いついたんです。
――起業ゼミに入ってすぐにアイデアを思いついたんですか?
堀内さん:いえ、アイデアを思いついたのは検討期間の締め切りギリギリでした。他に3つのアイデアを考えていたものの、どれもイマイチですごく悩んでいました。それでやっと「リアルタイムクーポンアプリ」を思いついたんです。検証費用の5万円を獲得してMVP(最小限のプロダクト)を作り始めてからは、すごくワクワクしながら進めていきました。
――「リアルタイムクーポンアプリ」はすでに多摩市内の数店舗に導入されているということですが、実際に使われているんでしょうか?
堀内さん:アプリのきっかけとなった「絆」では、すでに常連さんがクーポンを使ってくれています。「お店に食品が余って困っているなら助けに行きたい」と、クーポン発行後すぐにお店へ行ってくれたそうです。今はまだお店に対してユーザー数が少ないので即効性はないものの、お店の役に立つ使い方がされていて嬉しいです。
――アイデアを形にするまでに苦労した点はどこでしょうか?
堀内さん:クーポンを発行するお店と、アプリを使ってくれるユーザーを増やすことに、開発中も今も苦労しています。「リアルタイムクーポンアプリ」では、非常に短い期間のクーポンしか発行されないので、クーポンが発行されていないタイミングが生まれやすいんです。そうすると、ユーザーも使うのを諦めてしまいます。
ユーザー数が少ないと、お店側は「クーポンを出してもお客様が来てくれない」となってしまいます。この状況を解決するために、お店とユーザーを増やしていかなければなりません。
――課題を解決するために、今後どのような取り組みをしていく予定ですか?
堀内さん:お店の数を増やすために、多摩市経済観光課と多摩市活性化サポーターによる「たましめし応援隊」という団体と手を組み、お店を紹介してもらっています。お互いに「多摩市の飲食店を助けたい」という思いがあるので、一緒に活動を拡大していけたらと思っています。また、起業ゼミで投資してもらうことになった200万円はユーザー獲得のために使いたいです。
「巻き込み力」に成功を確信し、200万円の投資を決断
――「ガイアックス特別ラボ起業ゼミ」で、堀内さんに投資を決めた理由は何ですか?
佐々木さん:16名の参加者のうち、最も動きが良く、唯一成果を生み出せたのが堀内さんだったからです。勉強や部活で忙しい中学校生活の中、自分で時間をコントロールして事業アイデア出しから事業検証まで積極的に取り組めていた点は、私たちの期待以上でした。
加えて、堀内さんは周りの大人を頼るのがすごく上手なんです。担当メンターやご両親、お店の方など、ステークホルダーをどんどん巻き込んで影響の輪を広げていました。仮に今回のビジネスモデルが上手くいかなかったとしても、彼の巻き込み力をもってすれば、今後必ず成功します。そう確信を持てたので、200万円投資することを決めました。
――周りの大人を巻き込むことは、堀内さん自身も意識されていたんでしょうか?
堀内さん:そうですね。「起業ゼミ」という普通では得られない環境にいるからこそ、課題にぶつかったときは自分一人で悩まず、周りの大人の方に頼って進めることを心掛けていました。
――周りに頼れることは、これからも重要になってくる力ですね。堀内さんはもともと起業に興味があったんですか?
堀内さん:いえ、はじめは「起業」の言葉の意味もよく分かっていませんでした。だからこそ興味が湧いて、起業ゼミの説明会を聞くことにしたんです。起業について話を聞くうちに、「自分にも社会貢献できるチャンスある」と感じました。また、起業は何歳からでもできると聞いて挑戦してみることにしました。
起業ゼミは単発イベントで終わらせず「ムーブメント」にしたい
――学校側から見て、今回の堀内さんの活動はどうでした?
木之下先生:彼にはレジリエンスがあると感じました。もしくは、起業ゼミを通して身につけたのかもしれません。事業検証を進める中で、上手くいかないことや壁にぶつかることは、参加者全員が経験しています。その中で、アイデアを形にするところまでやり抜けたのは彼だけ。彼のレジリエンスが、出資を獲得できるかどうかの差だったと思います。
また彼が出資を獲得したことは、周りの生徒にも大きな影響をもたらしました。事業検証が停滞していたグループや他の参加者のモチベーションが一気に高まったのです。彼のおかげで、今後の起業ゼミの流れも変わっていく気がしています。
――「堀内さんに続きたい」と思う生徒さんは多いでしょうね。そもそも、堀内さんがドルトン東京学園に入学することを決めた理由は何ですか?
堀内さん:「新しい学校の一期生になる」ということにワクワクを感じたからです。もともと親の勧めで中学受験をすることにしていたのですが、通っていた塾で見かけた雑誌にドルトン東京学園開校の記事が載っていました。それを読んで、「もし入学したら一期生になるのか」と入学後の生活を想像し、自分たちで学校を作っていくことに魅力を感じたんです。
――入学前のイメージと比較して、入学後の生活はどうですか?
堀内さん:想像していた生活と違うな、と感じることが結構あります。入学前はただ「楽しい」イメージだったんですが、実際は自分たちで一から作っていくことにプレッシャーを感じることも多くありました。
小学校までの生活とは全く違って、新しいことにどんどんチャレンジできるのも、想像以上でした。それも徐々に慣れて、今は楽しめるようになったと感じています。
――堀内さんの、今後のビジョンを教えてください。
堀内さん:まずは「リアルタイムクーポンアプリ」を活性化させるために、登録店舗とユーザーを増やしていきたいです。また、今回の経験を活かして今後もさまざまなアイデアを生み出していきたいと思っています。起業家は、将来の夢のひとつです。
――堀内さんのアイデアで社会がどう変わっていくのか、これからが楽しみですね。
木之下先生:起業に関する取り組みは、「企業側の問いに学生が答えるプレゼン」という形の単発のイベントとして終わりがちです。しかし、私たちドルトン東京学園と佐々木さんは、「実社会と繋がる」ことに重点を置くことで意気投合しました。
起業ゼミは、夏休みの特別授業などではなく、カリキュラムの一つとして自由に入っていけるよう常設されています。学校がコワーキングスペースになっているイメージです。今後は、ガイアックスさんをフラッグシップ企業として、また私たちをフラッグシップ校として、コンソーシアムのようなものをつくれたらと思っています。
佐々木さん:私たちガイアックス側も、ドルトン東京学園さんと同じ気持ちで取り組んでいます。弊社が運営する「スタートアップスタジオ」では、スタジオ側が中学生以上の方にゼロから伴走して仲間集めまでサポートしています。一般的な親子起業と異なり、会社が支援して中学生と一緒に企業する仕組みです。
ご両親の資金援助ではない形で起業する取り組みは、日本でも非常に珍しいはず。これはスタートアップスタジオだからこそできることだと自負しています。
――学校という枠を取り払ってコワーキングスペースのように仕事ができるというのは、非常にユニークな取り組みですよね。起業ゼミから未来の起業家がたくさん生まれることを期待しています。こちらまでワクワクするようなお話、ありがとうございました!
取材:西村 創一朗(Twitter)
文:矢野 由起