グリーンスクールを卒業した環境活動家・露木志奈が大学を休学をして、気候変動を伝える講演をはじめた理由とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第320回目となる今回は環境活動家として全国を周りながら講演活動をされている、露木志奈さんをお迎えしてお話をうかがいました。

露木さんが「環境活動家」という概念がなくなる世界に向けて活動されているという言葉がとても印象的です。そんな活動を行うに至った背景や、みなさんが知らない露木さんのこれまでの過去などをお伺いしました。

気候変動と自分の生き方を伝える環境活動家

 

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

こんにちは、露木志奈(つゆき しいな)です。

現在20歳です。メインの活動は毎日全国の小学校から大学を周り、講演をすることです。

講演では「気候変動」と言われる問題についてお話ししています。また、「自分という生き方」について少しでも知ってもらうことで、「こういう生き方があるんだ」と感じてもらえたらと思い活動しています。

私が環境に興味を持ったきっかけは、高校生の時に世界で一番エコな学校と呼ばれるグリーンスクールというインドネシアのバリ島にある学校に通っていたことにあります。

さらに、環境について知ってもらうきっかけ作りとして、自分で口紅をつくることができるコスメキットを、ワークショップも合わせてお届けしており、体験を通じて環境について考えていただく活動を行っています。

 

生きる力を学んだり、自給自足の生活をした幼少期

 

ー露木さんのメインの活動でもある環境について興味を持った背景には、どのようなルーツがあるのか教えていただけますか?

トトロ幼稚舎という名前の幼稚園に通っていました。「生きる力を学ぶ」みたいな幼稚園だったと思います。それをコンセプトとして運営されているのかはわからないのですが、私自身は「生きる力」を強く学び、感じました。

具体的には、一般的な幼稚園はお昼ご飯を出してくれると思うのですがここでは出さないんです!児童が飯盒でご飯を炊いたり、幼稚園生なのに火を燃やし飯盒炊爨したり、みんな包丁を持って料理をしていました。

卒業遠足として、箱根ー厚木間の30キロを歩いたり、山へ行って、生えている桑の実や山菜を採って食べたるなどする幼稚園でした。

私はそんな環境にガンガン馴染めましたね。(笑)比較的どこでも馴染めちゃうタイプなので、一般的な幼稚園にいたとしても馴染めていたと思います。

 

ーその後、小学生の時に山村留学に行かれていますが、どのような環境で、どんなことをしていたのかを記憶に残っている範囲内で教えてください。

4~5年生の2年間で山村留学をしていました。それ以前は公立の小学校に通っていましたが、夏休みに行ったキャンプをきっかけに山村留学が実施されることを知り、「行きたい!」と感じたので母に伝え、行かせてもらえることになりました。

長野県泰阜村にある「暮らしの学校だいだらぼっち」という名前の寮で、全国から集まってきた小学生約10〜20人と一緒に共同生活をしました。日々自給自足の生活をし、同時に泰阜村の公立の学校に通いました。

例えば、五右衛門風呂でお風呂を沸かします。追い焚き機能なんてものはないので、木を組み立てて燃やして沸かしました。

さらに、無農薬の畑や田んぼを耕したり、自分たちが使う容器も作り、登り窯などで焼き、釉薬なども作っていたりしました。お箸やスプーンですらも木を削って作っていました。

 

ー自分たちの身の回りに当たり前にあるものが「どうやって作られているのか」や「それがどういうものなのか」って言うのが手にとってわかる生活ですよね。

そうですね!日々生活していると、色々な家事をやる必要が出てきます。ゴミ出し、毎日の料理、はたまた掃除や犬の散歩は一体誰がするのか、ルーティンで行うのか当番制で行うのか、考える必要があります。これらを子どもたちだけで話し合って決めていました。そして、何か問題が発生した際には、夜中2時まで話し合うこともありました。

スタッフさんはいらっしゃるのですが、基本的には「そこにいる」というスタンスです。なので、子ども自身が主体的に物事を決めて、実行していくということがモットーとなっています。

 

英語が苦手だけれど、バリのグリーンスクールを選んだ

 

ーその後、15歳まで公立の学校に通学後、グリーンスクールに拠点を移されたことが大きな転機のひとつとしてあげられるかと思うのですが、グリーンスクールをどのように知り、何に惹かれ、グリーンスクールへの進路を決断されたのでしょうか?

中学生の時、私の英語の評価は「1」でした。しかし、英語自体は好きで、魅力的に感じていたので、英語を話せるようになりたいと思っていました。

なんとなく留学というものが頭にあったので、母に「高校では留学がしたい」と相談した際に、母は「英語だけを学ぶのであれば日本でやれば良いと思う。それ以外のものを外国で学ぶのであれば、応援するよ!」と言いました。

この言葉の背景としては、3歳の頃から母子家庭で、私たち4人兄弟を母が頑張ってみんなを育ててくれました。だからなんでも私がやりたいことができる訳ではありませんでした。

しかし、たまたま母が英語以外の要素も学ぶことができるグリーンスクールをインターネットで見つけてくれて、「こんな学校があるよー!」と紹介してくれました。

校舎が全て竹から作られているグリーンスクールの画像をインターネットで見た時は、「行きたい!」以外の感情はありませんでした。そして、全く英語を話せないことを忘れたままグリーンスクールに進学することを決断し、入学に至りました。

 

ーグリーンスクールはどのような環境で、日々どのような活動をされていたのでしょうか?

グリーンスクールーは「世界のグリーンリーダーを育てる」という目標を掲げています。世界各国から子どもたちが集まり、幼稚園から高校まで通うことができます。私は高校の3年間をグリーンスクールで過ごしました。

グリーンスクールではプロジェクトラーニングという、日本でいうところの少人数のグループで主体的に問題解決を目指す学習形態をとっていて、「ただ問題を学んで終わりでなく、その問題に対して、一体今何ができるのか」という方針で授業が進んでいくのが特徴です。

また、自分で授業を作ることもできます。自分が探究したい物事が選択授業の中にない場合は、それについて学習する時間を与えられ、学習を進めていくと正式に単位も付与されます。ちなみに、私はその時間を使って「化粧品作り」をしていました!

 

化粧品の中身と容器は環境問題と関連付いている

 

ー化粧品づくりに至った背景や、どんなところにインスピレーションを受けて、そして何を化粧品作りから見出されたのでしょうか?

きっかけは2歳下の妹の肌が弱かったことにあります。妹が安心して使える化粧品がないことに気付き、グリーンスクールで化粧品を作りはじめました。

私が高校1年生、妹が中学2年生の当時、初めて化粧品を買いに行きました。私たちは「ナチュラル」と記載してある商品を「安全だし良いな〜」と思って購入しました。しかし、実際に使用してみると妹の肌は荒れてしまい「ナチュラル」「オーガニック」「無添加」と記されているのになぜ安全じゃないのだろうと疑問に思いました。

当時は不思議に思いながら、原材料が書いてある裏面のラベルをみて一つ一つの成分を調べるだけでしたが、調べているうちに3つの気づきがありました。

1つ目は、「曖昧な言葉の定義」についてです。日本語は特に言葉の定義がしっかり定められていないケースが多いので、「ナチュラル」や「オーガニック」等の言葉を必ずしも安全ではないけれど、マーケティングワードとして利用している場合があります。これは企業だけが悪いということではなく、知識不足の消費者の問題でもあると考えています。

2つ目は、「動物実験」です。医療の場面だけではなく、化粧品が開発される際にも動物実験がされているということに驚きました。そして、調べていくうちに、この動物実験が必ずしも必要ではないということも知りました。

3つ目は、「プラスチック問題」です。実はこの辺りから環境問題について知るようになりました。以前から環境問題については知っていましたが、身近なシャンプーボトルやリップスティックや口紅の容器は便利で素晴らしいものなのに、「なんでみんながプラスチックを消費することを避けよう」としているのだろうと疑問に思っていました。

結局色々調べていく中で、今の世の中にリサイクルできるシステムがほとんどないことに気づきました。リサイクルができれば、ずっと使い続けることができたり、海に流れていくこともなく全く問題ないけれど、今そのようなシステムがうまく機能していないからこそ、必要でないものは減らしていこうという世の中になってきていると感じました。

 

ー露木さんのつくる手作りできるコスメキットのブランドはどんなところを大切にされているのか教えてください。

「作るということをきっかけに、普段、消費しているものの背景やどういった物語があるのか、私が口紅を通して学んだことを他のものにも目を向けて欲しいな」という思いが根本にあります。ただ言葉で伝えるよりは、口紅作りという体験を通じて経験していただいた方がより伝わるのではないかと思いました。

まず、化粧品と環境問題のつながりは「中身と容器」の2つの課題に分けられると考えています。

中身の場合、化粧品に多く使われているのは石油です。例えば口紅に使用される石油はオイルとしても使われますし、着色する際にも石油が使われています。

そもそも身体にあまり良くないとされている石油を色々な企業が使用している現状を改めて俯瞰した時に疑問を感じました。石油の代わりがない場合は仕方ないと思いますが、実際には代替できるものがあるので、身体に良い方を使うべきだと私は思います。

どの企業も安く生産するために石油を使用しているケースが非常に多いのですが、口紅の中身の原価はいくらかご存知ですか?4000円の口紅があったと仮定した時に、口紅の中身の原価はいくらだと思いますか?

実は…7円です!

容器は高くても、100円という風に言われていて、容器と中身を合計するとおおよそ107〜110円ぐらいになります。

私が当初、完成された化粧品を販売しようとした時は、原価が300円ほどかかりました。やはり材料や容器にこだわるとどうしてもこれくらいの原価になってしまいますが、普通の口紅の原価と比べると3倍ほどかかっているわけです。そのまま市場に出すと、やはり消費者からすると高すぎますよね。

だから7円という原価に収まっているという事実の背景には、より原価を抑えて、利益追求のための大量生産が存在します。このように、化粧品の中身と容器は環境問題と関連付いているということです。

 

ーどのように化粧品作りを学んでいったのでしょうか?

はじめは、作り方はもちろん、何を使って作れば良いのかわからなかったので、日本で「手作り化粧品」について書かれている本を購入して参考にしました。

そこに載っているレシピの原材料を自分好みのものに入れ替えたり、原料にこだわったり、オイルやワックスの量を試行錯誤しながら調節するなどして、1〜2年かけてできあがったのが今のレシピです。

時間をかけて作ったレシピや道具、材料を購入できる場所もすべて公開しています。さらに、販売しているキットも1回きりではなく今後も一生消費者自身が口紅を作ることができるキットになっています。

 

大学は待ってくれるけど、気候変動は待ってくれない

 

ー現在行われている講演活動は大学入学後、どのタイミングで始められたのでしょうか。

講演を始めたのは2020年の11月なので、活動をはじめて2ヶ月半になります。(3月現在)

講演活動を11月に始めた経緯としては、私は9月入学なので2年生に進級する前の夏休みにこれまでの振り返りと今後何をしたいのかと自問自答しました。

このまま大学で学んでいくこともできたのですが、環境問題はすでに解決策が明確で、私が今するべきことはまた新しい知識を取り入れることよりも行動することの方だと考えました。

気候変動に対する解決策として、クライメイトクロックという地球の平均気温上昇を1.5度に抑えるという指標が示されています。国連もこの平均温度の上昇を食い止めるにはここ7~10年が大切な期間ということを提唱しています。

「大学は待ってくれるけど、気候変動は待ってくれない」と、私は他のメディア等でもこのように述べています。だから私は講演活動の優先順位を高くしています。

しかし、課題に対してどういう手段をとるかというのは個人の自由だと思います。私の場合は「環境問題について知らない人」や「環境問題は知っているけど、何をしたいいのかわからない」という人たちに、私の長所でもあるコミュニケーション力を活かした講演会を通じて同世代に伝えることに決めました。

 

ー火がついてるものが確実にそこにあって、その熱が伝染していくイメージができます。

露木さんはその人たちのあったものに火を灯して、その人たちの気持ちを肯定してあげられるきっかけ作りをされたりなど、講演活動を通してすごく大きな役割をはたされていますよね。

ただ、私は「環境について知ってもらいたい」や「行動していれば絶対に変わる」と言いながら活動していますが、実際にこれが本当に答えなのかは誰にもわからないと思います。

自分の一生の人生を通じて、私の行動や発言があっていたのかどうかを問うていくものだと思います。

明確な答えがわからない中で、みんなと一緒にもがいて答えを見つけていきたいと感じているので、自分の行動が100%正しいとも思っていませんし、人の数だけ正しい答えがあります。

私は「行動お化け」「おしゃべりお化け」みたいな性格なので、良いか悪いかを判断する前にとりあえずやる!そして失敗したら巻き戻すみたいな性格です。(笑)

実際に初めて講演先の先生をご紹介いただいた時に、自分の自己紹介とともに「人生を変えるプレゼンをするので、ぜひ講演をさせてください」と言ったものの、講演用のプレゼン資料は1枚もできていませんでした。(笑)

スライドができていないのに、そのような発言をすることが普通ではないということにすら気づかなかったくらい、行動することが先走るタイプです。

 

ー最後に、講演活動を行っていて印象的なことや、嬉しかったことについて教えてください。

昨日は東京スタートアップという場所で講演をしました。講演後に大人の男性の方から「今日は病室から講演を視聴しました。薬より効くぐらいのお話の内容とエネルギーを感じました」と、素敵な感想をいただいたのが忘れられません。

その後も、「私のやっていることが正解かどうかはわからないし、違う考え方の人もいる」という講演中の私の発言が心に残ったとご連絡をいただきました。こういうお言葉がすごく嬉しいですし、ずっと講演をしていたいなと思います。

学校での講演後の場合だと、講演をした日に持続可能な電力会社に変更してくれたり、企業のプラスチックのパッケージングを調査する学生や、環境問題をテーマにして団体を作ろうと声をあげてくれる学生さんがいました。実際に行動してくれた人のお話を聞くと本当に嬉しいです!

私はどちらかというと熱で話すタイプで、言語化に時間を要してしまうのですが、人に伝えわって行動してくれている事実を知ると本当に嬉しいです。

人に求められたり、必要だと言ってもらえることが人間の生きがいだと思いますし、答えがわからないからこそみんな探そうとするし、それが人生の生きがいだと思います。

 

ー露木さんの活動が広まるにつれて、今後は環境活動家として旗を立てる人が増えて行ったり、旗を立てるまでもなく、みんなの中に溶け込んでいく未来が来るかもしれないと露木さんの話を聞きながら、ワクワクしました。今回はお話ありがとうございました!

取材者:山崎貴大(Twitter
執筆者:大野雛子(Twitter
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter