様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。今回のゲストは、劇団ノーミーツ俳優のオツハタさんをお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。
人生の目標は「自分にできることをして生きていく」オツハタさん。芝居と出会い、オツハタさんが俳優の道に進むまでの経緯をお話いただきました。
俳優の原点になった友人とのお笑いコンビ
ーまずは自己紹介をお願いします。
劇団ノーミーツで俳優として所属しているオツハタと言います。
劇団ノーミーツは「NO密で濃密なひとときを」をテーマに、打ち合わせから本番まで1度もメンバーや観客に会わずに活動するフルリモート劇団です。
今は劇団の作品や劇団に依頼があった作品、個人に依頼があった作品に出演しています。
ー劇団ノーミーツの経緯をお伺いできますか?
元々、劇団ノーミーツ主催の小御門優一郎と一緒に舞台を作っていました。新型コロナウイルスの影響で演劇を含めたリアルの場でのパフォーマンス活動をおこなうことが社会的に難しくなったところに、Zoom(※)を使ってリモートで作品を作らないかと誘われたのがきっかけでした。
※Zoom…パソコンやスマートフォンを使ってWeb会議やセミナーなどをオンラインで行うためのサービス。
最初に作った作品はホラーもので、当日いたメンバーと手探りで作品を作りSNSにアップしたのが始まりですね。たくさんの方に観ていただけたところから劇団ノーミーツとしての活動が始まりました。
ーリモート公演だからこそより多くの人に届いてる実感はありましたか?
会場のキャパシティに影響がないので、より多くの方に作品を届けられるのは良いところですね。また、新型コロナウイルスが流行っているご時世なので、直接会わなくても作品を届けられるところはお客様からも嬉しいとお声をいただくことも多いです。
ー俳優になられるまでの経緯をお伺いしたいと思います!どんな子供時代でしたか?
僕は他人の事を考えられない独善的な子供で、人の顔色を疑うことはまずしなかったですね。同世代の友達と遊んでる時はドラえもんのキャラクターのジャイアンみたいだったと思います(笑)
印象的なエピソードが、わざわざ僕の家まできてくれた友達との約束をすっぽかしたことですね。その後謝ることもなく、平然とその友達に接していました。
そう思うと本当に人のことを全然考えていない自分勝手な子供でしたね。
ー学生自体のターニングポイントを聞かせていただけますか?
高校に入ってからは自分が周りより劣っているように感じ、「人のことを見ないと行動できない」と思うようになりました。入学式から、自分より優れている人がたくさんいる違う世界のように感じ、それまでと違って人の目を気にしすぎる性格になりました。
そんな中、高校で出会った友達とお笑いを始めました。お笑いを始めるきっかけは、先生が定年退職をするときのお疲れ様会でした。一緒にコンビを組んだ友達は普段深く関わることはなかったのですが、お互いに「面白い奴だな」と思っていたんです。
お疲れ様会を企画したタイミングでお笑いをやろうと声をかけたら二つ返事で応じてくれ、ほかのもう1組と一緒にお笑いのネタを披露しました。そこからお笑いが楽しくなり勉強もろくにしないでお笑いやコントをやってましたね。
ただ、僕は要領が悪くて1つのことしかできない性格なので、お笑いに熱中しすぎて大学受験は浪人してしまいました。
高校でお笑い仲間と出会ったことで今の自分があると思うので、これが1つのターニングポイントだと思います。
演劇を大好きになった理由と大好きな演劇から離れる理由
ー大学で演劇とはどのように出会ったのですか?
僕は他者に影響されることが多くて、演劇を選んだきっかけも友達の影響でした。
ある日、高校の時にお笑いをやっていたメンバーから演劇を始めたと連絡がきました。その友達に誘われて初めて観に行った新人公演がとても面白く、「自分も負けてられない」という思いで、その後大学の演劇サークルに入りました。
ー実際お笑いをしてた3年間と演劇をしていた3年間の違いはありましたか?
僕の中で、お笑いと演劇は違うことをしている感覚はなかったです。お客さんの目の前に立ってパフォーマンスをすることには、むしろお笑いと演劇の共通点を感じていました。
ー演劇をしていて辛かったことはありますか?
自分が思ったようにいかないときは辛いと思いましたね。難解な役や演目があると、どうしたら求められているものが実現できるんだろうと考えていました。
辛いことがある中でも演劇を続けられたのは、元々の性格が影響してると思います。元々の性格が哲学的というか、1つのことを考え続けることが好きなので、頭で考えていることを実践する場所があるのが自分にとってとても楽しいことに感じられていました。
自分で考えて作ったものや演出家の方などと話し合って作ったものをお客さんの前に出した時に空気が変わったり、お客さんから意見もらえることがやりがいです。
ーやりがいの1つに空気が変わるとありましたが、Zoom公演ではどのように「空気が変わること」を体感していましたか?
短編か長編かで体感するタイミングが違います。
短編の場合は制作してから配信するまでのスパンが短いことが多いです。制作の場でともに作っているメンバーの反応もそうですし、作った時の記憶が鮮明なうちに作品を公開して得られるお客さんの反応を見ると「空気が変わること」を体感してますね。長編の場合はチャット欄でリアルタイムでコメントがもらえるので、そのお客さんのコメントで体感してます。
今まで舞台でやってきた演劇は拍手や舞台上からお客さんの顔を見て反応を受け取ることができるのですが、本番中はお客さんの顔が目に入らないこともありました。そのため、チャットやコメントで言葉がその場で目に入ることがすごく新鮮でした。
ーノーミーツのチャットが盛り上がることにしかけや工夫などはありますか?
ストーリーを制作する上で意図的に山場を想定しながら作品を作っているので、その意味での「仕掛け」はあると思います。
また、今までやってきた作品では現実世界の環境を題材にしてSF的な要素を加えている部分が多かったので、共感してくれる方が多いのかもしれないです。観てくれた方も心当たりがあると感じると伝えたくなることが多いようですね。
ー大学卒業で一旦演劇から離れた理由をお伺いできますか?
就職活動を始めるタイミングで「俳優活動をしてみたいと思っている」と相談したときに、両親から「就職をしてほしい」と伝えられました。
家が裕福ではなかったことや、俳優という安定しない職に就くことへの心配もあり、一般企業への就職を勧めてくれたんだと思います。納得して就活を始めるんですが、演劇を辞めなきゃいけないのかと思った時はとても辛かったですね。
仕事と演劇の共通点を生かして前向きに
ー実際に就職された仕事のお話をお伺いできますか?
店頭に立って商品を販売する接客業に就きました。
演劇と接客業で共通点もあり、それまでの演劇の経験を生かせたことはたくさんありました。共通点のうちの1つは「お客様がいること」ですね。就職した後も舞台で演劇を続けていたこともあり、お客様がいるという共通点は舞台と仕事のどちらにも経験を活かすことができました。
また、演劇で鍛えた、声をはっきり出せるところは意外にも仕事で役に立ちました。
自分の感情をどう伝えたらいいか、どう接したらお客さまは心地いいかなど、演劇で身につけた感覚が仕事にも役立ちましたね。
ーどのように役作りをしていましたか?
役作りをする時は「その役が作中でどういう役割をするのかを考える」のが大事だと思ってます。
僕は劇中で脇役を演じることが多いですが、脇役は自分の心情を描かれることは少なく、他のキャラの心情を表す補助をすることが多いんです。そのため今演じているキャラクターの「役割」を考えるのが大切です。
ただ、役割に収まろうとすると、その役を演じるのは誰でもよくなってしまいます。そのため、どう自分の意図をからませていくかが大事になりますね。
僕は監督や他の出演者に確認しながら、役割の中でもこのキャラクターはこう見えてほしい、そのキャラを観た時お客さんはこう思うのではないかと考えながら役を演じています。
また、役割だけを果たすのではなく、声量や言葉の強さ、動きなどの細かい意図を拾われた時に理由を説明できるようにしたり、僕が演じてプラスの要素を追加することで僕がその役を演じる意味を作中に乗せていきたいと思っています。
一生懸命頑張ろうとしなくてもできること
ー実際の舞台とZoomでの作品で演技の違いはありますか?
違いは多く、新しい表現媒体だと感じることが多いです。
例えば声の出し方に違いがあります。舞台だと会場全部に伝わってほしいのですべてのセリフで声をハキハキ出しますが、Zoomではマイクに声が入れば聞こえるので常に大きな声を出さないといけない訳ではありません。
部屋の配置1つにしても、画角に映るすべてが役を表すことになります。どうやって声を出すか、体を動かすかと同時に画角の中でどのように役を表すかが大事になっていきます。
Zoomでの作品は声の出し方や背景や体の動きなど、いろいろな表現ができる媒体だと言えますね。
ー今後のオツハタさんの活動についてお伺いできますか?
休職中に「自分のやりたいこと、自分にできることはなんだろう」と考えるようになりました。休職中に一緒にまた芝居をやらないか、と誘われ、再び舞台に立ったのがきっかけで「演劇は自分にできることだ」と思うことができ、再び俳優の人生を歩みはじめました。
「自分がしたいことやできることはなんだろう」と考えた結果、「一生懸命頑張らなくてもできること」がとても大事だと思いました。また、そこから派生したもので広げていければ素敵だと思っています。
今後も努力しつつ、自分のできることを広げていければ良いなと思っています。
ー短い時間で濃いお話をありがとうございました。オツハタさんの今後のご活躍を楽しみにしています!
執筆:ゆず(Twitter)
インタビュー:吉永里美(Twitter/note)
デザイン:五十嵐有沙(Twitter)