「諦めないといけない」理不尽に立ち向かう。ハヤカワ五味の起業家としての10年間と、ILLUMINATEが目指す世界

「生活の導線にあるのは素晴らしい。」「生理前急に体も気持ちもどん底状態でしんどくなるけど自分が悪くないんだって気になる」「生理アプリは今までも使っていたけど、つけ忘れてしまうことが多かった。でもLINEからなら気軽に記録を続けられそうで、うれしい。」これは、生理に着目した、自分らしく生きるための選択肢を照らすプロジェクト「ILLUMINATE(イルミネート)」のLINEを活用した生理日記録サービスに寄せられたSNS上の声です。

ILLUMINATEの主宰であるハヤカワ五味さんは、弱冠25歳でありながら、約10年にもなるECサイト運営の経験を持つ起業家。小さいサイズ専門のノンワイヤーランジェリーブランド「feast(フィースト)」、細身ワンピースブランド「ダブルチャカ」など、リアルな悩みから端を発して事業展開を続けてきたハヤカワさん。ILLUMINATEからは、8月26日より生理周期に合わせてサプリメントが届くサブスクリプションサービス「チケットサプリ」の一般販売をスタート。彼女が、いま、見つめる課題とは。これまでの起業家としての変遷とともに、新サービスに込められた想いをお聞きしました。

「お年玉の5万円で始まった」起業する気がなかった起業家

ーハヤカワさんの商品、「キリトリ線タイツ」が発売されたのは2013年のことなんですね。そもそもEC事業をはじめられたきっかけはなんだったのでしょうか。

中学生の頃にロリィタファッションを好んで身につけていて、ロリィタ服のオークション販売も行っていました。それが始まりです。

キリトリ線タイツは、自分が欲しくて作成したもの。中学3年生、美術予備校にタイツを履いて行ったら、友人に「わたしにも作って!」とお願いされました。また、当時、アメーバブログを開設していて、読者の方からコメントで販売の要望もいただいていたんです。最初は1,000円で販売していましたが、ニーズが高まり、在庫を抱えてより多くの人に届けるために値段を上げていきました。

ー「起業するぞ!」と目標を掲げていたのではなく、中学生の頃に好きが高じて、結果として事業ができあがっていったんですね。

その数年後に株式会社ウツワを創立し、起業家になりましたが、全然そんなつもりはなかったんです。大学1年生のときにはじめて現在7年目になるfeastも、フリマの延長、くらいの気持ちでした。

最初はお年玉の5万円でアパレルブランド「GOMI HAYAKAWA」を立ち上げ、できた利益30万円を元手にfeastが生まれました。高額な起業資金を用意したわけでも、時間をかけて準備したわけでもなく、feastの売り上げが1,000万円を超え、節税として法人化をしたんです。

  

ーそんなハヤカワさんも、現在は起業家として注目を集めていますが、母校は多摩美術大学。学生時代は美術関係の仕事を目指されていたのでしょうか。

美大に進学しようと決めたのは中学2年生。中高一貫校に進学していて高校受験がなかったので、将来のことを考えるとなると、もう大学の話になっていたんです。当時は、イラストレーターや漫画家になることを夢見ていました。

多摩美術大学の卒業生で講師も務めているデザイナーの佐藤可士和さんが、同校のオープンキャンパスで講演されていたんです。それを見て、「こういう人になりたいな…」と思いました。週7日は予備校に通うほど受験対策に取り組み、中学生の頃に抱いた憧れを持って、多摩美術大学に進学します。

 

ー大学ではどのような方向性で学ばれていたのでしょうか。

広告が軸にあったと思います。ロリータファッション好きにとって、ラフォーレ原宿は聖地のような場所。広告に力を入れている商業施設であることも感じ取っていました。大学では、ラフォーレ原宿の広告も手掛けるクリエイティブディレクターの大貫卓也さんの下で学ぶ機会を得て…「広告って、人のこころを動かせるの、いいなあ」という気持ちが高まったんです。父親が広告代理店に勤めていたことも、関心を強くした一因でした。

憧れだったラフォーレ原宿に店舗を構えた経験も

美大に入学して、自分よりもクオリティが高い作品を生み出している人にたくさん出会いました。ただ、そういった方たちの多くが見せ方が下手で売れていなかったんです。モノを売っていた経験がわたしにはある。そこから、広告といった見せ方を追求するほうを仕事にしたいと考えるようになりました。

 

ー美大出身のデザイナーとしての一面を持っていますが、マーケティングへの興味関心は早くから芽生えていたんですね。

feastまでの事業は、伝え方だけではなく、プロダクトデザインも自分でやっていました。最近は、仕事がとてもしやすいですね。ILLUMINATEでは、デザイナーにデザインを任せています。伝えることに集中しこだわれているので、自分がしたいことができていると実感する日々です。

 

世界の価値の総量を増やす仕事

ー若くして事業を起こしたことで、苦労した点はありますか。

正直、組織として、機能していませんでした。自分に自信がなく、他人の意見に迎合するタイプだったんです。ましてや学生。「経験が長い大人が言っていることのほうが、きっと正しいのだろう」と思ってしまっていました。それで舐められたり、仕事のクオリティが落ちてしまったり…。振り返れば、ぎりぎりのラインで仕事をしていました。

いまは、まるで全く違うゲームをしているかのような感覚です。わたし自身が変化し、しっかりと意見が言えるように。組織に集まる人の質は、代表の質に比例すると考えています。自分のスタンスがはっきりし、肝が据わったことで、良い人に巡り合えることが増えたと感じているんです。知り合いが増えて、人づてにご紹介いただく機会が増したことも、より良い人と結びつける後押しになってくれました。

 

ー中学生から現在まで、長年携わってきたEC事業。魅力はなんでしょうか。

モノを売る、というのは、いままでになかった価値を付加させて届けるということ。それはつまり、世界の価値の総量が増えたことでもあります。生んでいる、作っている、そんな意識があるんです。また、商いの基礎の部分が知れます。

 

ー2014年にfeastが誕生したことで、2015年に株式会社ウツワを創立。この「ウツワ」という社名の由来を教えてください。

形だけの法人化のため、会社というものに対してのこだわりはありません。ただ、名前を掲げて仕事をする以上、そこに実績が蓄積されます。その実績の方が大事。要は、器がどうあるかではなく、器の中になにをいれるか、なんです。

形としてのウツワ、そしてなにかをいれていくウツワの大きさ。ーそんなことを考えて、社名をつけました。

 

身体はもっとよくなる。実体験から気付いたこと

ーそのウツワに、2019年から生理に関する事業を入れたんですね。生理という女性の身体に伴う現象に向き合い始めた背景には、なにがあったのでしょうか。

ILLUMINATEのデザイナーであるminaは、大学の同期なんです。卒業制作で生理用品のデザインをしており、それを商品化したいという相談を受けたことがきっかけでした。そこから、生理用品に関するイメージへの違和感に気付きます。CMを見ていると、「生理のときでも元気に笑顔で!」なんてメッセージが目立ちますよね。そこでは、女性性を強く主張されていると感じたんです。「これは向き合うべき課題だ」と、わたしの中でも意識が確立されていきました。

2018年に大学を卒業し、自分の仕事をしながらまずは工場探しから始まりました。セレクトショップの開催や、大手メーカーへの企画の持ち込みなども重ねながら、現在で2年目となりました。収益化はまだ先ですが、生理を話題にする空気感の醸成ができ、社会の変化も生まれていると感じています。

 

ー生理用品の販売と共に、LINE上で行える生理記録のサービス機能を提供したのはどうしてですか。

プロジェクトをリリースしたときの反応を見ていて、そもそも生理に関しての課題が顕在化されていない現状があるように思えたんです。定期的に婦人科を受診している人の割合は2割に留まるというデータもあります。日本で、25歳未満の月経不順の就労女性の産婦人科受診率は30%弱というデータがあります。(※)

この数字は、「自分にとってこれはふつうだから」と思っている人の現れではないでしょうか。しかし、その中の何割の人が、健康な状態であるはずのふつうがどういうものか、把握しているのか疑問です。「ふつうを知る」ことが第一に必要だと考え、「ECと生理をどうやってつなげるか?」という最初のテーマへの対策としても生理記録のサービス開発を行いました。

 

ー実は、知らないだけで、生理に関しての問題を抱えている方は多くいらっしゃるように思います。

いまの自分の体が完璧ではなく、もっと良くなれる。そういった視点を持てたことは、先日リリースしたチケットサプリを販売するきっかけにもなっているんです。

チケットサプリは、生理周期に着目したサプリメント。生理では物理的に経血を失って、その分、栄養も偏ってしまいます。それを補うことを目的としており、「生理痛は特に重くない」という人にも使ってほしいと考えています。

わたしも、生理痛は比較的軽い方なんです。しかし、実は身体の不調があったことに気付きました。通っているパーソナルジムのトレーナーに、「呼吸が浅いので、もしかしたらヘモグロビン値が低く、貧血を起こしやすいかもしれません」と言われたことがありました。気になって検査を受けたところ、数値上でもトレーナーの指摘が合っていたことが分かります。特に生理のときにバランスを崩していて、蓋を開けてみれば、わたしにも不調が訪れていたことを知れたんです。それから、必要な栄養素を摂るようになって、調子が格段によくなりました。

必要な栄養素をとるだけで状況が改善する。そのことに早く気付いてもらうためには、自分の体調に敏感であることが重要。また、そういった意識が養われ、婦人科で相談できる人が増えてくれれば嬉しいですね。

 

ーILLUMINATEがプロジェクトを通して実現したい世界を教えてください。

生きていると、自分自身の意志に反して諦めねばならないことがあります。結婚や出産のためにキャリアを諦める。生理痛の痛みでパフォーマンスが発揮できず、本来されるべき評価を得ることを諦める。それって、本当に諦めないといけないことなんでしょうか?

なくせる理不尽だってある。 

ILLUMINATEはそう考えています。そんな理不尽を、照らして見つけ出し、諦めずに進めるように選択肢を提供します。足元が照らされて、安全に前に向かっていけるような、そんな世界にしたいです。

ーILLUMINATEがもたらす変化と、そしてハヤカワさんご自身のご活躍を今後も楽しみにしています。

※参考:「働く女性の健康増進調査」(2016)調査結果概要(日本医療政府機構)

ハヤカワ五味さん(Twitter
ILLUMINATE(Twitter / チケットサプリについて
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取材:西村創一朗(Twitter
執筆・編集:野里のどか(ブログ / Twitter
デザイン:五十嵐有沙(Twitter