中国SNSのフォロワー数70万人超えの現役女子大生 “シブルナ” が日本と中国のリアルを伝え続ける理由

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第129回目となる今回は、現役女子大生ながら中国のSNSで70万フォロワーを誇るシブルナさんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

6歳の時にご両親が離婚。お母さんとは月に一度しか会えない生活を8年間続け、「幼少期における家族」の存在の重要性」に気づきます。就学前に始めたピアノを皮切りに、中学校では吹奏楽部、高校では地元で強豪と有名な合唱部へ入部。部活漬けの日々を送ります。「中学校の音楽の先生になりたい」と挑んだ大学受験に失敗し浪人した結果、長年夢見た音楽の道を閉ざすことに…。

2018年に2年間の中国留学を経験。中国語を学ぶかたわら、当時現地でお付き合いしていた方の存在がきっかけとなり、中国版ニコニコ動画「bilibili」への動画投稿を開始。その後、株式会社Nateeに所属し2020年3月に中国版TikTok「Douyin」のアカウントを開設。2020年8月現在、bilibili5万フォロワー、Douyin70万フォロワーとその人気は衰えることを知らない。

明るい笑顔で我々に楽しさを届けてくれるシブルナさん。その笑顔からは想像もつかないほど辛い過去、そして動画投稿にかける熱い思いを伺いました。

 

現役女子大生インフルエンサー “シブルナ” とは

ー本日はよろしくお願いします!現在の活動について教えてください。

日本の大学に通学するかたわら、”シブルナ” 名義で中国人向けに動画投稿を行っています!現在は休学中ですが、今年の10月から復学予定の大学3年生です。

在学中に2度の中国留学を経験しており、1年目は上海、2年目は四川省成都市で過ごしました。中国版TikTokと呼ばれる「Douyin」では70万フォロワー、中国版ニコニコと称される「bilibili」では5万フォロワーに(2020年8月時点)。Twitterでは中国にまつわる情報を積極的に発信しています。

 

ー70万フォロワーとはすごい!Douyinはいつ頃から始めたのでしょうか?

2020年3月に開設し、スタートから4ヶ月目になります。もともとbilibiliというYouTubeのようなプラットフォームで長編動画を投稿しており、当時の知名度がDouyinのフォロワー数にもつながっているのではと考えています。

 

ー最近では、株式会社Nateeとのプロデュース契約が話題となりました。どのような経緯で事務所に所属することになったのでしょうか?

上海に留学していた頃、日本人が集うオフ会に参加していたある人との出会いがきっかけです。後日、その友人がNateeにプロデューサーとして在籍することになったんです。そのとき既に私が動画投稿を開始していたこともあり、タレント所属を提案されて社長とお話しすることに。偶然の出来事ではありましたが、友達と同じ会社で動画を作れる期待と、このまま自分一人でやり続けたら飽きて投稿しなくなるだろうという予想から、所属を決意しました。最近ではプロデューサーについていただくことも決まり、日本企業からお仕事に関して声をかけていただくことも増えてきました。

 

ー個人で活動しているときと事務所に所属した後で、心境の変化はありましたか?

ありました!個人で投稿していた頃は「この中国語間違っていないかな」と、中国人の視点がわからず一人で迷っていたこともあったのですが、事務所に所属したことで相談できる人ができ心理的安全の確保につながりましたね。また、無理なく動画投稿を継続できるようになりました!自分だけで進めていたら、「週に1回は投稿しよう」と決めていても自分次第なので絶対にやらなくなるんです(笑)でも、事務所の存在がありプロデューサー陣も頑張ってくださっているので、「私もやろう!」と自分を鼓舞できています。

私は「仕事で動画を投稿している」という気持ちでやった方が長く継続でき、なおかつプロ意識も持てるんです。事務所に入ってすごくよかったと思っています。

 

ーbilibiliで動画をアップし始めた頃は、現在ほどのフォロワー数到達を目指していましたか?

全く意識していませんでした。日本にいた頃は動画投稿とは無縁で、はじめてbilibiliで動画をアップしたのがちょうど1年前くらい。当時は、中国の動画投稿市場の規模感がわかっておらず、本当に下手な中国語と編集で仕上げた人生初の動画が、投稿後すぐに1万フォロワー、10万回再生になったことに心底驚きました。日本であれば、初投稿の動画でチャンネル登録者数1万越えってそう簡単に起こり得ないじゃないですか。このとき、中国の動画投稿市場がいかに巨大だったのか実感しましたね。

 

ー中国と日本の市場規模の違いを感じますね。ここまでフォロワー数が伸びている要因はなんだと思いますか?

2つあると考えています。

1つ目は、デイリーアクティブユーザー数、言い換えると「毎日アクティブにDouyinを使っている人の数」が類似のプラットフォームと比べて圧倒的に多く、4億人以上いることです。bilibiliは約1.3億人程度なので、市場規模の違いが影響していると考えられます。

2つ目は、私の動画を見ている人にとって「わかりやすくウケやすい」内容構成にしていることです。私は「日本人×四川語×ネタ系」というキャラクター設定で、全ての動画に必ずオチを入れると決めています。誰にでもウケやすい内容なので ”いいね” を押してもらいやすく、SNSで拡散もされやすい。加えて、ショートムービーなので簡潔で伝わりやすいですよね!これらの要因が重なって、長編動画のbilibiliより急速にフォロワー数が伸びたのではと思います。

 

ー成功要因までしっかりと分析されているんですね!具体的には、どのようなコンセプトに基づいてDouyinの動画を制作されていますか?

「日本人・中国へ留学している・四川語を話せる・面白い」この4点のかけ合わせを意識しています。

日本人かつ中国で動画を上げている方は多いのですが、「面白い=ネタ系」を取り入れていることが他者との差別化につながっていると感じています。中国人にとって、日本人女性は可愛いイメージが強いんです。理由は、中国で日本のアニメや漫画、女優の橋本環奈さんなどが人気なので、日本人女性といえば「可愛い・優しい・いい奥さん」というイメージが強い。そこで、他の動画投稿者と差をつけたい!と思い、ネタ系に方向性を絞りました。

 

ーシブルナさんだからこそ出せる魅力ですね!有名になるにつれて、正直、立ち止まりたくなった瞬間はありましたか?

ありましたね。投稿した動画のコメント欄には、いろいろなメッセージがたくさん届きます。もちろん、その中にはアンチコメントもあり「太った」「中国語ヘタ」という言葉も…。そういったコメントもあって然るべきと頭ではわかっていても、実際にずっと眺めているとどうしても心が病んでしまって…。今は慣れてきましたが、最初の頃は一つひとつのコメントを読んでは傷ついて、を繰り返していました。

でも、あるとき気づいたんです。「全員に好かれるのなんて絶対に無理だ」と。

割り切って考えられるようになったことで、アンチコメントの何倍もの数の応援コメントが目に留まるようになりました。これが、今でも継続しようと思える最大の原動力になっていますし、動画を作って投稿することが単純に好きなことも、今もアップし続けられるポイントですね。

 

両親の離婚。「逆境でも頑張れる」原点

ーシブルナさんの幼少期についても聞かせてください。6歳のときにご両親が離婚。当時はどのような気持ちでしたか?

辛かったですね…。幼い頃は所属しているコミュニティが家族か学校しかないので、親が自分の全てといいますか。小学校から中学校までの8年間はお父さんが親権を持っていたので、お母さんとは月に一度しか会えませんでした。その後、高校からは親権が変わりお母さんと住むことになりました。

女の子だったこともあり、当時からそこまでお父さんっ子ではなく、お母さんに会いたい気持ちが強かったことを覚えています。同性の親を必要とする感情は何度も持ちましたし、お父さんに反発することもあったので、余計に辛く感じていましたね。

 

ー学校ではどのような子どもだったのでしょうか?

友達がいないわけではありませんでしたが、大人数のコミュニティに入るのが苦手だったので、一人の時間を確保したいと常に思っていました。中学校では委員長を務めたこともありましたが、やはり大人数の空間に馴染めないと感じる瞬間もあり、みんなの輪に入ることもあれば一人の時間を大切にするタイプでもあり、2つの側面を持っていましたね。

ー当時を振り返ってみると、今のシブルナさんにとって「家族」とはどのような存在ですか?

自己が形成されていく過程で、特に小中学校の家庭環境や親の関係、そして親から受ける教育は非常に大切で、子どもの将来に大きく影響すると思っています。当時の辛い思いや親の背中を思い出すと、今でも「自分が家庭をもったら、絶対にこうしたくない!」という思いが強いです。

家庭環境において、私のような経験を持っている人はあまりマジョリティではないと思うんです。離婚してお母さんと会えるのは月に一度、とか、離婚調停を経験していたりとか…。マイノリティを経験したことで、同じような思いをしている人の気持ちを理解できたり、投稿する動画のネタを作りやすくなったりして気持ちの整理がつくようになりました。いろいろな気持ちを汲み取れるようになったことで、異なるパターン動画を作ることができていますね。

 

ーご自身の家庭環境を反面教師として捉えているんですね。

もちろん、両親に感謝していることの方が多く、複雑な家庭環境によって得られた経験は私の大切な財産です。その反面、親に対して「もう少しこうできたんじゃないか」と思ってしまった場面は正直ありました。そのため将来家庭をもったときに「自分が親になったら○○はしない」と決めていることはたくさんあります。

 

断たれた長年の夢。はじめて見失った「生きる道」

 

ーご自身なりに過去を受け入れているんですね。中学校、高校はどのような学校生活を過ごしていましたか?

部活に明け暮れていました。中学校は吹奏楽部に、高校は新しいことに挑戦しようと思い合唱部に入部したのですが、ある大会で日本一になるほどの強豪校で、朝練・昼練・放課後練と休む間もなく練習に励んでいました。正直、勉強する暇もありませんでしたね(笑)

 

ー部活動に情熱を注いでいたんですね!大学受験を機に落ち込む出来事があったと伺いました。何があったのでしょうか?

受験に失敗し、浪人したんです。実は、就学前にピアノを始め、中学校も高校も音楽に青春を捧げていた私は、小学校4年生の頃から「絶対に中学校の音楽の先生になる!」と決めていました。国立大の教育学部音楽科を受験したのですが、第一志望の大学に落ちてしまって…。親が授業料を払うのであれば、経済的な理由で支払いが難しいため私立大の受験は許してもらえず、私も自分のお金で通学することは考えていなかったので、必然的に浪人することに。その後、親と私の将来や金銭面について話をした結果、音楽の道は諦めることになりなりました。今日まで生きてきた中で1番のドン底を経験した出来事でしたね。

 

ー何年も思い続けてきた音楽の道を金銭的な理由で断つことになるとは、なかなか受け入れがたかったのでは…?

「音楽しかやってこなかった私が、これからどの道で生きていけばいいんだろう」と思いました。

受験に失敗して、正直私には音楽1本で生きていけるような才能はなく、努力したとしてもこの道で生きていくのは難しいだろう、と思ったのは事実です。かといって、そこまで勉強が得意なわけでもない…。夢と現実の狭間で揺れ動き、将来の目標もやりたいこともなく、完全に路頭に迷っていました。

おそらく、芸術を極めている人の中で同じような悩みや葛藤を抱いている人は多いのでは、と思います。成功する人はほんの一握りだとわかっていても、好きだから続ける。でもやはり才能ある人にはどんなに努力しても敵わない…。現実を突きつけられている感じがして本当にキツかったですね。

 

ー次に向けて気持ちを奮い立たせるのも大変だったかと思いますが、浪人を経てどのような進路選択をされたのでしょうか?

音楽の先生になりたいと思っていた当時の私にとって、音楽以外で興味のあることは教員になることでした。地元の福島県にある大学の教育学部社会学科を受け無事に合格したのですが、大学1年生のときに「教員になるのはやめよう」と思った出来事がありすぐに方向転換したんです。教員免許状取得に受講必須な授業が想像以上に多く、自由に過ごせる時間が少ないと気づいて…。入学当初から「留学したい」と強く思っていたので、1年生の前期で教員の道からは外れることに決めました。

 

ーそんな紆余曲折を経た決断だったんですね!留学はどのようなきっかけで興味を持つようになりましたか?また、中国に決めた理由は?

「田舎を出たい」気持ちが強かったですね。私は、生まれも育ちも福島県の田舎です。本当は大学入学を機に上京を考えていましたが、自分の学力レベルと親の金銭的負担を考えて地元の大学を受けることに決めました。「留学か何かでもしないと、向こう4年間地元を離れられない。都会に住む機会もなくなってしまう」と思ったんです。

大学の交換留学制度を利用すると決めたものの、英語圏に留学するためにはTOEICやIELTSなどで一定の英語力を有していると証明する必要がありました。当時の私は持ち合わせていなかったため、条件的に参加申請可能な国が中国だったんです。また、英語圏の留学には100万円以上の貯金も必須条件で、私の場合は親から一切の金銭的援助はなかったため、自分で奨学金を取得して行ける国を選ぶ必要がありました。

 

ーはじめから中国が選択肢の中にあったわけではなかったんですね…!

もとは英語圏に留学したいと思っていました(笑)中国語が嫌いであれば絶対に選ばなかったと思うのですが、大学の授業で中国語を履修していて「すごく面白いな」と思っていたので、最後は学ぶ楽しさが決め手になりました。とはいえ、この留学が人生で初めての海外。2018年10月、真新しいパスポートを片手に不安と期待を抱きながら、満を持して飛び立ちました。

 

初海外で初留学。中国で過ごした日々がわたしを変えた

ー2年間の留学中はどの地域でどのようなことを学びましたか?

1年目は、上海にある華東師範大学という有名な教育大学で中国語を学び、2年目は四川省成都市で本科留学として専門分野を中国人学科生と一緒に学びました。経済学に興味があったのですが、私は日本の大学で教育学部に所属していたため、日本で経済を学ぶ機会がなかったんです。「ならば留学先で学ぼう!」と思い、経済学を選択。初めての海外だったのでわからないことが多い上に言葉も通じない…。1年目は楽しい思い出が6割、辛い思い出が4割で、たくさんの思い出ができました。

 

ー日本の大学で履修していない分野を第2言語で学ぶとは、すごい行動力ですね!実際に中国に行って感じたギャップはありましたか?

「人生を楽しんでいる人が多い」と感じました!

語学留学生の場合、中国語を学んでいるクラスには外国人しかおらず、留学生寮で生活します。いろいろな国の人がいるだけでなく、18歳から40歳と年齢もさまざま。「4年間旅し続けていて、中国語を学ぶためにここに来た」という人もいれば、40歳で「中国語が好きでもう一度留学したくて来た」という人も。年齢を重ねても楽しそうな人が本当にたくさんいたんです。縛られることなく、世の中の基準に沿って生きなくてもいいのかな、と思えたことは1番のギャップでしたね。

ー21歳のとき、動画投稿にチャレンジするきっかけとなる出来事があったそうですね。

留学中に現地でお付き合いしていた方がいたんです。彼はイタリア人で私と同じく留学生でした。そのため、付き合ったとしても数カ月で互いに上海を離れることが決まっており、「上海を離れるときにお別れしよう」と約束して付き合うことに決めたんです。

お別れのとき、「これからもたまに連絡をとろう。本当にありがとう」と言葉を交わし、その後も互いに連絡を取りあう日々。「この人と将来結婚しよう」と考えていたほど、彼を想う気持ちは本物でしたね。でも、彼は日本語を話せないので日本で一緒に暮らせる可能性は低く、私が海外駐在でもしなければ彼と一緒になることは極めて厳しい…。

「どこにいても食べていける環境を作りたい」そう思ったとき、この夢を叶える手段としてbilibiliを始めたんです。

 

ーそんな知られざる経緯があったとは…!当時から「作った動画を誰かに届け、何かを感じてほしい」という思いもあったのでしょうか?

もちろんありました!動画を今でも続けることができているのは「絶対にどこでも稼いでやる」という根気があったから。でもそれだけではなく、発信そのものに対する思いもあります。純粋に動画制作が好きで、中国人に彼らの知らない日本について伝えられたらいいな、と当時から思っていましたね。

 

ーbilibiliの存在は、どのようなきっかけで知りましたか?

留学時から名前は耳にしていたのですが、はじめはそこまで興味を持っていませんでした。留学1年目が終わった一時帰国中に、知り合いから「やってみたらどう?」と言われたのがきっかけです。Douyinを始めたときと同じく、こちらも偶然のスタートでした。もちろん動画制作のノウハウはなく、右も左もわからないままに、なけなしの編集で動画をアップしたことを覚えています。ただ、中国語のアウトプットを兼ねたいと思っていたので、中国語を話す比率だけは意識していましたね。

 

ー回数を重ねるごとに上達されているかと思いますが、毎回のテーマはどこからインスピレーションを得ていますか?

iPhoneのメモ帳に、思いついたことを常に書き留めています!例えば、ホテルに泊まるときは従業員を観察したり、洋服を買いに行くときは店員の声の出し方を気にしてみたり。日常の何気ない場面の中で、日本人が持つ特徴に注目するようにしています。

 

“シブルナ” にとって「動画」とは。そして描く未来

ー動画を世の中の人に届けることは、シブルナさんにとってどのような意味を持ちますか?

動画を投稿していなければ出会えなかった人がたくさんいますし、いくら中国は人口が多いといっても、やはりネット上でないとここまで多くの方とは交流できません。たくさんの人と関わってネット上で会話できたことは、今後の自分にとって大きな財産になるのでは、と思います。

現在、Douyinのフォロワーは右肩上がりに増えていて、まだ上限に達していません。勢いのある今だからこそ、アクセル全開で頑張ってみようと思っています。

 

ーシブルナさんの志、そして今後について聞かせてください。

志は「2020年内にDouyinで100万フォロワーを達成すること」と「中国で日本人女性KOLと言えばシブルナ」と言われることです。

将来の展望については、2020年末までの期間で受注数の変遷や金銭的な状況、フォロワー数の変動水位を見て、今後もこのまま動画だけで挑戦していくか就職するかを考えたいと思っています。ですが、一度は組織の中で働いてみたいと強く思っているので、おそらくどこかのタイミングで就職にチャレンジするのではないかな、と思います!

 

ー今日はありがとうございました!シブルナさんのさらなる挑戦を応援しています!

 

取材・執筆:青木空美子(Twitter/note
デザイン:五十嵐有沙(Twitter