「彼氏の会社、買収したい」病み体質で不登校、貢ぎ、ナイトワークを経験した高桑蘭佳の変化してもブレない野望

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第82回目のゲストは株式会社メンヘラテクノロジーCEOの高桑蘭佳さんです。

株式会社を設立、自分と同じように悩む女性の悩みに寄り添っている高桑さん。現在、東京工業大学の大学院生と起業家というふたつの顔を持ち、精力的な活動をされてますが、高校時代は彼氏への依存を引き金にして不登校や引きこもり生活を経験していました。

「彼氏と別れるなら死ぬ、と思っていました」と自身の過去の恋愛を語る高桑さんが、仕事に自分の意味を見出し、抱えてきた課題をビジネスに昇華させていった過程に迫りました。

 

誰かの悩みに寄り添う存在「メンヘラせんぱい」

ー本日はよろしくお願いします!まずは自己紹介と、メンヘラテクノロジーで提供しているサービスについて教えてください。

高桑蘭佳です。「らんらん」という愛称で呼ばれています。1994年に石川県金沢市で生まれました。神奈川大学工学部に進学し、現在は、東京工業大学大学院修士2年です。

学業の傍ら、フリーライターをしています。また、2018年8月に株式会社メンヘラテクノロジー設立しました。

メンヘラテクノロジーでは、「メンヘラせんぱい」というチャットサービスを提供しています。気軽に相談できるチャットサービスで、30分300円から利用が可能です。

「誰かに悩みを聞いてもらいたい」という時、選択肢はいくつかあると思います。カウンセリングを受ける、無料の公共サービスを利用する、身の回りの人に相談をする…。ただ、どれも完全とは言えません。カウンセリングは私と同世代の人たちにとっては金銭的なハードルが高いです。無料の公共サービスは利用希望者が多いタイミングだと、自分が欲しいタイミングで受けられない場合があります。身の回りの人には、相談しづらいことってありますよね。相手への負担を気にしすぎたり、身近だからこそ言えない悩みだったり…。

 

ーそいう方にとってメンヘラせんぱいが新しい選択肢になるんですね。

若い子だと、最近はマッチングアプリを利用して話を聞いてくれる人を探すみたいなんです。でも、多くのマッチングアプリは異性同士でつながる仕様になっているので、弱っている女の子の気持ちに漬け込もうとする人もいます。それで、トラブルに巻き込まれてしまったという話もよく耳にするんです。その手段を選ばなくてもいいようになれば、という思があります。

 

ーだからこそ価格もこれだけ抑えて提供しているんですか?

はい。ただ、相談を受ける側の「せんぱい」のことも考えると、価格は今後の課題ですね。

暗い話題もあるので、せんぱいの負担も考慮しています。サービス構想の時点では、電話対応も検討していたのですが、「電話だと場所が限られてしまう」「相談を受けるハードルが高い」という声からチャットスタイルになりました。

 

「頭の良い子が好き」彼氏の言動に追い詰められる

ー大学院生としての学業に、起業と、とても精力的な印象を受けます。昔からそうだったのでしょうか? 

高校生の頃は、不登校でした。当時、お付き合いしていた彼氏の言動が原因です。

もともと女子のコミュニティが苦手で、好きな人のことで頭の中がいっぱいになっているような女子高生でした。彼は、わたしのことを「面倒くさい」とよく言っていて、待ち合わせに来ず5時間も待たせるような人だったんです。それでも、別れたくなくて、嫌われないように努めていました。

 

ー高校生の頃から恋愛体質だったんですね。不登校になったきっかけはなんですか?

彼は「頭の良い人が好き」と言ってましたが、わたしは勉強が苦手でした。頑張っても、そんなにすぐに成績が上がるはずもなく…。「東大や京大に行くような女の子がいい」と言うので、志望校をそこに合わせて模試を受けるも、当然のようにE判定。その結果に、彼氏がさらに追求してきて、勉強への苦手意識が強まりました。

やがて、テストを受けることが怖くなり、中間テストの日から学校に通えなくなってしまったんです。彼氏にはそのことを隠し、塾や彼の学校へは行くものの、昼間は同じく不登校の子と遊んだり、ずっと寝ていたり…そんな生活でした。日を追うごとにどんどん落ち込んでいって、深夜に友人と出歩き、補導にあったことも何度もあります。

 

幸い、両親はわたしを理解してくれる存在だったので、「ストレスが増えるなら、受験はしなくてもいいんじゃない?」と言ってくれました。そして、進学先が決まらぬまま高校を卒業し、浪人生活に。相変わらず勉強は苦手でしたし、受験会場で涙が止まらなくなってそのまま帰る…なんてことも。それでも、神奈川大学の工学部に合格して、実家を出て新生活がスタートしました。

 

ナイトワークで稼ぎ、彼氏に貢ぐ日々

ー苦労しながら受験も乗り越え、大学生になられたんですね。新しい生活はどうでしたか?

大学へ進学しても相変わらず人間関係を円滑に進めることは苦手でした。新しくお付き合いする方もできましたが、「お金ないから奢って」と催促するような彼氏で…。ガールズバーやキャバクラなどのナイトワークで稼いで、多い月で30~40万円ほど貢いでいたときもありました。

そもそも精神的に安定していなかったので、ふつうのアルバイトができなかったんです。かといって、接客業が得意なわけではありませんでした。お客様とのコミュニケーションや、日中も届く連絡に、ストレスが募っていきました。

 

ー辛い時期だったことが伝わります。転機はなんだったのですか?

大学2年生のときに、イベントでお酒を売るアルバイトをしていました。そのイベントの手伝いで来ていた男性に一目惚れしたんです。それが、現在の彼氏です。

彼と付き合いはじめるときに「辞めてほしい」と言われて、辞めることにしました。しかし、稼ぎの良いアルバイトだったので、わたしの金銭感覚も狂ってしまっていて…生活に困るようになって隠れて再開しようとしました。 

 

それがバレたときには、当然、彼はとても怒っていました。「辞めないなら、別れるよ」くらいの剣幕で迫られたものの、わたしも自分の生活があります。辞めたくても、辞められなかったんです。そしたら、彼氏が「らんらんは何がしたいの?」と、本質的な部分から聞き出してくれました。

 

もともと作文が得意で、ライターとして活躍されているさえりさんに憧れがありました。「ライティング、やってみたい」と口にすると、彼氏が「そっちを磨いた方がきっと稼げるようになるよ。将来にも役立つだろうから、挑戦してみなよ」と後押ししてくれました。

 

ライティングの仕事で、「必要とされている」と実感

ーらんらんさんときちんと向き合ってくれる恋人とのお付き合いが、良い方向へ導いてくれたんですね。具体的にどうやってライターの道に進まれたのですか?

最初はメディアを運営している編集部でインターンをして、記事を書いていました。それが、とても楽しかったんです。そして褒められることが嬉しくて堪りませんでした。書いた記事がスマートニュースにピックアップされて、PVが跳ね上がり、また褒められて…。

段々と、直接、執筆依頼をいただくようになったんです。インターンよりも高い報酬でライティングのお仕事ができるようになり、フリーライターとして実績ができていきました。

お仕事を通して誰かに必要とされることで、「生きていていいんだ」と思えました。彼氏に必要とされることが何より大事だと思っていたのですが、彼氏以外にもわたしは価値を提供できるんだと体感し、自信につながったんです。

 

ーライターとしての才能が開花していく一方で、大学ではどのような研究をされていたのでしょうか?

彼氏のツイートにリプライを送っているユーザーから、彼氏との親密度を探るというTwitter分析を行っていました。大学の助教授に、「彼氏のことを束縛したい」と話していたら、「それを研究テーマにしてみたら」とアドバイスをいただけたんです。

周りの工学部の友人の多くが進学することから、特に悩まずに自然とわたしの意識も大学院へと向いていきました。学歴コンプレックスをずっと拭えずにいたので、だめもとで、偏差値がより高い東京工業大学の大学院を受験します。わたしが所属している文理融合コースは、個性的な研究計画を歓迎する傾向にあり、わたしの研究はウケが良く、予想と反して進学できることに決まりました。

 

「彼氏の社員旅行に同行したい」束縛から起業へ

ー過去に負ったコンプレックスを、自ら払拭したんですね。起業されたのは大学院へ進学してからでしょうか?

はい。起業のきっかけは、ビジコンへの参加と、彼氏を束縛したくてです。

彼氏を束縛するネタの記事と、わたしの研究テーマを知ってくださったある企業の方との繋がりでサマーインターンのビジコンに参加することになりました。よく趣旨も分からぬまま参加したのですが、そこでのアイディアが選ばれ、数百万円の出資と共に法人化する権利を得ました。当時は起業するつもりは全くなく、お断りするつもりでした。その後、あることで彼氏と喧嘩をしたんです。

彼氏は会社を経営していて、本当は、その会社の役員になりたかったんです。そして、会社の社員旅行に同行したくて…。でも、彼氏が許してくれませんでした。それで喧嘩になり、そうしたら「起業して実績があったら、メンバーも役員になることを認めてくれるかも」と彼が言うので、出資を受けてメンヘラテクノロジーを立ち上げました。

 

ーそのような動機で起業を志した方、きっと他にいないでしょう…。では、事業内容が固まっていたわけではなかったのですか?

はい。そのため、経営者の方に相談をして、「自分が抱えている課題を解決するために作られたサービスは強いよ」とアドバイスをもらい、まずは自分の内面と向き合いました。お話したように、わたしは人間関係や恋愛でのもつれを多く経験していて…。その悩みにアプローチするようなサービスの開発をしようと思い至りました。

とは言っても、起業がしたいという思いが先行していたわけではないので、会社経営へのモチベーションはあまり高くなかったんです。変化があったのは、出資していただいた資金の底が見えてきて、次の選択を迫られたタイミングです。

メンヘラせんぱいの前身となったサービスはあって、テストユーザーからのポジティブな声が届いていたんです。それがなくなってしまうのは寂しい、と思い、それからは意識を切り替えて、真剣に事業と向き合うようになりました。

 

ーこうやって、現在の高桑さんにつながっているんですね。今でも、彼氏の存在をきっかけに病むことはあるんですか?

それが、忙しいとあまり病まないんですよ。気分が落ち込むことは昔と比べて減りました。むしろ、安定しているので感情の起伏がないことを悩んでいます。「逆に病みたい」って気持ちです。

 

ー気持ちが安定しているのは良いことですね。今後は、やはり彼氏の会社の役員になることが目標なんでしょうか?

まさか彼は本当に起業すると思っていなかったようで、「やっぱりそれはできないよ」と伝えられてしまいました…。

そこで、新しい方法を考えたんです。企業は、買収されると、もともとの株主が持株を売却できないように立場を固定することができる「ロックアップ」という制度があるんです。通常だと数年ですが、わたしは100年にして、彼氏の企業を買収してしまおうと考えています。

経営者の知人にも「結婚よりいいじゃん!」と背中を押されています。それができたらいいなあ、と考えていますね。

 

ーどこまでもブレない高桑さんの今後の躍進も楽しみです。本日はありがとうございました!

 

 

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取材:西村創一朗(Twitter
執筆・編集:野里のどか(ブログ/Twitter