フランス在住ワインソムリエ・藤崎智史が18歳から国外生活を続ける理由

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第187回目のゲストは、フランス在住ワインソムリエの『Timothy(ティモシー)』こと藤崎智史(ふじさきともし)さんです。

母親が観る韓流ドラマで、日本以外の言語と文化に興味を抱き、高校を卒業して韓国に飛び立った藤崎さん。現在は、7か国語を操るワインソムリエとしてフランスで働いています。香港でホームレスの状態に追い込まれ、キャリーケースを携えてマクドナルドや公園で寝泊りし約 1 ヶ月を凌いだこともあったそう。常に現状に満足せず、自分に向き合い、国境を越えて挑戦を続ける行動力に迫りました。

韓国語を学びに18歳で韓国へ

渡航先の韓国で友人と旅行中の藤崎さん

ー自己紹介をお願いします。

藤崎智史です。現在はフランス・ボルドーに在住しており、ワインバー&レストランL’exquis(レクスキ)でワインソムリエをしています。日本人にとって、ワインは馴染みがない。そこで、正しい嗜み方や、日常で役立つ情報をTwitterで発信しているんです。

ー藤崎さんは、名前が 2 つある?『Timothy(ティモシー)』とは別名ですか。

香港滞在時のイングリッシュネームです。香港は母国語が英語なので、香港で生まれ育った人はイングリッシュネームを持ってたんです。名前の発音である「Tomoshi」が派生して、「Timothy」。レストランで会話のつかみに使うと、お客様との距離が近くなるんですよ。

ーワインソムリエとしてワインはどのように選ぶのでしょうか。

友人にワインを選ぶときは、味の好みから勧めます。普段の食事やドリンクを聞いて、味の好みを逆算します。
人とワインを関連づけて選ぶこともあります。人生の印象的な話を受け取り、ワインの醸造年度と記念の年を合わせるんです。例えば、10年前に交際を始めた彼氏と結婚した女性には、醸造年度が2010年のワインをセレクトします。

ー現在は海外を拠点に生活する藤崎さん。昔から日本以外の文化に親しまれていたのでしょうか。

唯一の海外の接点は、母親が観る韓流ドラマ。自分の知らない言語と生活を知ったんですよ。小学6年生の卒業文集に留学したいと書いていて、留学に興味がありました。
しかし中学校と高校は部活でテニスに打ち込み、英語が苦手だったので、留学からは遠い環境にいましたね。

ー留学への意識はいつから高まったのでしょうか。

はじめての進路相談ですね。高校2年生で自分の将来を考えたとき、「留学」というワードをふと思い出したんです。「4年制の日本の大学に行くより、韓国で18ヶ月の語学学校の学費の方が安い」と交渉すると、両親は快諾。一方で、高校の先生には「海外に行っても、言葉を覚えても、なんにもならない」と応援はしてもらえなかったんですよね。だけど、「言われてるなー。はいはい」と真剣に取り合わなかったです(笑)。

ーどこの国に留学されたのでしょうか。

「英語は話せないから『英語圏以外』で、お金に余裕が無いから『近場』だと、『台湾と韓国』がいいかもしれない」と考え、「韓流ドラマの韓国の言葉や文化が面白かったなあ。よし、韓国にしよう!」と決断。
2012年4月、韓国語を学びに18歳で慶熙大学校(きょんひだいがっこう)付属の国際教育専門学校へ語学留学します。休みの日や授業後は、日本人や韓国語を勉強する外国人と交流していましたね。韓国語を日常会話でスラスラと話せるようになったので、嬉しいなと感じていました。

韓国に来て1年ぐらいが経過し、日本への帰国か、慶熙大学校に編入するかを悩みました。
でも、「学びたいことがないから大学進学を希望しなかったのに、韓国で大学に進学するのは違うな」と思ったんです。「将来、日本で何かをすることは頭にないから、僕の人生は海外が中心になりそうだ。ということは、英語が話せるといいかも」と思ったので、英語を中心に学べる環境を第一に考えました。

語学学校に進学する以外の選択肢を探していると、香港で2010年からワーキングホリデービザが解禁されたことを知ります。日本人で経験した人は少なそうだったんです。「英語を使う職場に就職して、勉強しよう!」と思い、韓国滞在中の2012年に決断。2013年に香港に渡航しましたね。

入国8時間でホームレス

一番お世話になったイタリアンレストランのオーナー(左)と藤崎さん(右)

ー香港のワーキングホリデーで印象に残っていることはなんですか。

実は、入国した直後に出鼻を挫かれたんですよ。予約したマンスリー契約の物件を訪れ、「藤崎です」と受付に伝えると、「あなたの部屋がありません」と言われて…。
到着して8時間で、家なし状態。キャリーケースをゴロゴロと轢きながらトボトボ歩いていると、マクドナルドを見つけたんです。「とりあえず、ここで寝泊りするか」と思って一晩過ごすと、「あれ?意外と寝れるぞ!」って思って。

-すごい生命力ですね…

椅子はガチガチで固いし、冷房でガンガンに寒いけど、Wifiあるし、充電できる。「どうせなら、ホームレスを体験してみようかな」と思って、各地のマックや公園を2〜3週間で転々とする生活を送りましたね。

ーポジティブすぎる!! 異国の地でホームレスしながら働いていたんですね…

なんとか無事に家と仕事を見つけ、時間はあっという間に過ぎました。ワーキングホリデービザが残り3、4ヶ月だった2015年2、3月。日本人が集まるバーベキューでの出会いから、次はマカオに行くことにしたんです。

ー急展開! どんな出会いがあったんですか?

バーベキュー会場で、元々の友人に韓国と香港の経験を話し、「次の方向を探している」と友人に相談していると、出席していた日本人経営者に「マカオでオープニングスタッフをやらないか」と声をかけられたんです。
話を聞いてみると、六本木で『Cafe Frangipani』、マカオで『Cafe Little Tokyo』を展開する洋食カフェを運営する会社で、マカオで2店舗目の飲食店『Tokyo Kitchen』を立ち上げたそうで。
「面白そう!」と思ったので、5秒後には、「はい、やります!」と口にしていました。

店長未経験で売り上げは半年間で14倍に

Cafe Little Tokyoの厨房で、開店準備を進める藤崎さん

2015年5月1日に『Tokyo Kitchen』で店長として働きはじめましたが、売り上げが伸び悩んだので、悔しかったんです。ふと、『Cafe Little Tokyo』の客層を横目に見ると、単価800〜1,000円のランチに学生が満員だった。「学生をターゲットにすればいいのでは?」とひらめいたので、交流を深めることに。

『University of Saint Joseph New Campus』や『Macao Polytechnic Institute』が近隣にあり、休みを活用していろんな学生と遊びましたね。当時マカオで学生だった人はほとんど全員が顔見知りだったぐらいなんです。「『Cafe Little Tokyo』に来たら、御馳走するよ」と約束すると、お店に遊びに来てくれるようになって。「おいしい!」と満足した学生の家族が家族全員分の弁当を注文。さらに、家族それぞれの友人が評判を聞きつけて、お店に立ち寄ってくれるようになったんです。2015年11月頃には、半年間で、弁当販売事業の売り上げが14倍に伸びました。

だけど、お店が軌道に乗ったので、固定業務の繰り返しの毎日。高い給料を湯水のように使い、勉強する習慣を失うと、「ここままじゃ僕はダメになる」と思ったんです。ある日、日本酒バーとイタリアンレストランで働いた情景が蘇り、日本酒とワインへの興味を呼び覚ましました。「ワインをより深く学ぶなら、フランス語が必要だ」と感じ、「韓国語、英語、広東語を勉強したので、ここまで来たらフランス語も学ぼう」と思って、ワインを選択。

ふと思い出したのは、マイルドで優しい味の「ローザンセグラ」。それまでワインを飲んでも、「美味しいか、美味しくないか」の基準で判断していました。しかし、フランス・ボルドーで製造されたそのワインを一口飲んだときに、味の深さに衝撃を受けたんです。

サービスを主軸に。ワインを副業に。

現在の勤務先である「L’exquis」の戸口に立つ藤崎さん

ーフランスに渡航されるのですね。

田崎眞也さんが会長を務める一般社団法人日本ソムリエ協会の、ワインエキスパートの資格を日本で取得。2016年10月からワインの学校『CAFA FORMATION』に入学しました。
「ジタバタしても、伝わらないものは伝わらない。時間をかければ、言語は学べる」と考えていたので、フランス語を話せない不安や心配はありませんでした。しかし、ワインとフランス語の勉強で時間が追いつかず、最初は死ぬ思いをしましたね。

2017年9月から、ボルドー・モンテーニュ大学付属の語学学校であるDEFLEに入学。とりあえずフランスに滞在できる学生ビザを取得しました。現在の勤務先である「L’exquis」でアルバイトとして働きながら、ワインの勉強を継続できています。

ー藤崎さんの活動の展望を教えてください。

ワインとサービスを同時に提供するソムリエは一生続けたい職業ではないんです。
不特定多数を相手に楽しませたり喜ばせたりするのは大好きでした。一方で、マネージャー業務を通じて、自分の親しい人に深く関わって、目の前の相手をとことん幸せにすることが居心地がいいと感じたんですよね。
これからは、サービスの仕事を主軸にし、3年後は、執事として働くことが目標なんです。

ーなんと次は執事に…!変わり続ける藤崎さん、これからも楽しみです。ありがとうございました!

取材者:山崎貴大(Twitter
執筆者:津島菜摘(note/Twitter
編集者:杉山大樹(note/Facebook
デザイナー:五十嵐有沙Twitter