ビジネスと研究を接続する。自学自習をテーマにした、博士課程CEOの挑戦

「ビジネスと研究は相容れないもの」そう思われる方は多いのではないでしょうか。しかし、ビジネスと研究の二足のわらじを履く方もいらっしゃるんです。 

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ第40回目は、修士1年で株式会社パラリアを設立し、博士課程として研究しながら、CEOとして働く浅見貴則(あさみたかのり)さんにインタビュー。

経営者でもありながら、博士課程の学生でもある浅見さん。どのように、異なる肩書きを持つようになったのか。起業までの紆余曲折と、研究・事業への想いをお聞きしました。 

努力のやり方が下手だったからこそ、自学自習の大切さに気付いた

― 学習塾を経営しながら、博士課程で研究もなさっているんですよね。

そうですね、珍しい選択だと思います。少し特殊な環境だから出来ているキャリアですけどね。

大学では、学習環境に関する研究をしています。なので、経営している塾がそのまま研究対象になるといいますか。生徒がどんな風に勉強しているか観察して、仮説を立てて、少し環境を変えてみる。そして、また観察して分かったことを教授に見せに行く、というサイクルですね。

― どのようなテーマの研究なんですか?

塾の方針も含めて、キーワードは「自学自習」です。どのような環境だったらストレスなく自ら勉強できるか、が大きなテーマになります。

その実験の一環で、高校生の勉強環境を網羅したいと思って、塾では3スペース用意しているんです。

― 珍しいですね。3つも。

一つは、よくある個人ブースのような形で、無音で勉強できるスペース。二つ目は、カフェのようにBGMが流れていて、ある程度の音が許容される環境。三つ目は、完全にリラックスできるような環境です。冷蔵庫とかウォーキングマシンがあったり、休むためのスペースですね。

 生徒はこの3つのスペースを自由に行き来できるようになっていて、そこでの過ごし方を研究しているような形です。

― 塾が研究所のようになっているんですね。学習塾を経営しようと思ったのは、研究心からだったんですか?

元々は研究にも仕事にもする気はなくて、単純な興味だったんですよ。自分の大学受験の失敗が大元のきっかけです。

勉強って、やればある程度出来るものだと思っていたんですけど、全然上手くいかなくて。努力を成果につなげるには、正しい努力が必要なんだな、と実感したんです。そこから、「自分で考えること」に興味を持ち始めました。

― 受験当時は間違った努力をしていたんですね。

当時は気付けなかったですけどね。僕、自他ともに認める真面目な生徒で、学校の成績は良かったんですよ。でも、模試の結果はいつも悪い。

今思えば、頑張り方がひどかっただけなんですけど、周りは励ましてくれるんですよ。「お前は真面目にやってるから大丈夫!」って。僕もやってきたことが間違っているとは認めたくないから、励ましを信じて頑張ったけど、結局成績は伸びなかった。

不合格の結果が出て初めて、自分のやり方は間違っていたんだ、と気付きましたね。

― そこから、どうやって勉強法を学んでいったんですか?

浪人中に通っていた塾で、とある数学の先生と出会ったんです。かなりのおじいちゃん先生で、授業の仕方も昔ながらだったので、生徒受けは悪かったんですけど、めちゃくちゃ頭が良くて。「なんでこんな数式思いつくの!?」っていう解法で答えを出したり。

量で誤魔化していた僕とは正反対だ、この先生の考え方を知りたいと思って、その先生に弟子入りしたんです。そこで、何十年のキャリアの中から、教えてきたことや教え子の話を聞くにつれて、思考のレベルが一段上がった感じはありました。

― これは本当にためになった、と思う教えとかってありました? 

僕、計算ミスをしてしまうタイプだったんですけど、それを相談したときに「計算ミスをしないためには計算をしないことだ」って言われて。それしか言ってくれないので、もはや禅問答ですよね(笑)。

要は、計算ミスしがちな複雑な解法をしている時点で間違っている、ということだったんです。自分でそこに辿り着いたときは、視界がクリアになった感じでした。

― その先生に視点を引き上げてもらったんですね。

しかも、思考のレベルが上がると、数学以外の教科の成績も上がるんですよ。面白いですよね、考え方一つでここまで変わるなんて。

この実体験で感じたことは、いま生徒と接する中でも大切にしていることかもしれません。

人生を変えられる人になりたい。偶然の出会いから、起業が自分ごとに

自学自習や大学受験に興味はありましたけど、別に仕事にしようとは思っていなかったんです。経営工学を専門に選んだのも、いつかやりたいことが見つかったときに役に立つ、という理由だったので、起業を考えてもいませんでした。

― そこから、起業に傾いたきっかけはあったんですか? 

本当に偶然なんですけど、SNSで知り合った人とご飯に行く機会があって、経営工学を選んだ理由を話していたんですね。そうしたら、その人が何を勘違いしたのか「あ、じゃあ社長やりたいんだね!」って捉えちゃって。

「知り合いに学生で社長やってる人いるから紹介するよ!」って、その場で電話し始めたんですよ。僕、コミュ障なので、電話を制することもできず、そのまま会う予定が決まっちゃうっていう(笑)。

― おぉ、急展開ですね……。 

ここで会わないのもな、と思って、その社長さんと会ったんですけど、その人が物静かな感じの人で僕と波長が似ていたんですよね。社長って、何となくタフでエネルギーに満ちている人、っていうイメージだったんですけど、こんな人でも出来るんだって、急に身近なものに感じたんです。

そこから起業に少し興味が湧き出して、つないでもらって色んな方とお話するようになりました。

― 起業が一気に自分ごとになったわけですね。 

でも、そうやって話しているうちに僕と同い年の人が出てきたんです。同い年で、会社持ってます、って。その人と話したときに、「俺、完全に遅れてるな」と焦りを覚えたんです。本当は、勝ち負けの話ではないんですけど。

そこで、人と会うのをパタっと止めて、自分は何がしたいんだ、ということをひたすら突き詰める時間にして。そこから2ヶ月ほど考えた末に、自学自習に関することを仕事にしたいと思ったんです。

― そこで、勉強に関することに行き着いたのはなぜでしょう? 

僕を変えてくれた先生が頭にあったから、だと思います。周りになんと言われていても、僕の人生を変えてくれましたから。地位とか名誉よりも、そういう人生を変えられる人がカッコイイ、そういう人になりたいと思いました。

まさかの借金100万円。試行錯誤を経て起業へ 

― 方向性が見えてからは、順風満帆だったんでしょうか?

いや、もう全然です(笑)。起業しようと思ったものの、情報が全くないので、まずは勉強しようと思って色々調べたんです。 

初めて知りましたけど、世の中には起業塾みたいなものがいっぱいあるんですね。そこの営業を受けて、「社長やるならお金の知識がないとダメだよね」「営業力もないといけないよね」と不安に煽られるように、講座をいっぱい受けるようになって。

今思えば、思考停止で動いていただけなんですけどね。そこで借金が膨らんじゃいまして。

― どれくらいまで? 

100万ちょいまでいきました。

― 学生としてはかなりの高額借金ですね……。そこからどうしたんですか? 

そんな状況だったので、友達の誘いを断り続けていたんですけど、ふと「あれ、俺なにやってるんだろう」って我に返ったんです。塾をやりたかったはずなのに、何で人間関係を犠牲にしてまで、飛び込み営業の訓練やってるんだ、また頑張り方間違えてるぞ、って。

我に返ってからは早かったですね。まず借金を返すため、今までの活動時間を全部バイトに充てて、半年くらいで返し終わりました。その後は、軸を見失ったことを反省して、すごいと思う人に僕から教えを請おうと。そこで、一番最初に会った社長に「お金は払うので、色々教えて下さい」と頼んで、受験ノウハウのブログを書き始めたりしました。

ブログからオフラインでのセミナーや、オリジナル教材の販売に繋がったりして、大学4年の頃から軌道に乗り始めましたね。

―  軸が定まってからは一気に。 

やっぱり心から反省したのは大きかったですね。バイト中も、借金返し終わってからやりたいことをずっと考えていたので、軸をブラさずに一気にシフトチェンジできましたし。

― では、その活動が軌道に乗って起業に至ったんですか? 

実は、もうひと山あるんです(笑)。ブログやセミナーで稼げるようにはなったんですけど、修士1年のときにやる気がなくなってしまって。

土台はできているので、あとはブログ発信などをやり続けるだけなんですけど、全然気が乗らず、「このままでいいのか…?」と悩み始めてしまったんです。

― またもや見失ってしまったんですね。 

今回は悩み抜いても答えが全然見つからなくて。それが修士1年の冬だったので、これは自分の挑戦はバッドエンドとして終わって、就活するしかないのかな、と思っていたんです。

でも、そんなときに紹介で、パラリア共同創業者の先生方とお会いして。「生徒にとって、ストレスフリーに勉強することが一番良い」という考え方が一緒だったんですよね。そこで盛り上がって、「新しく塾を開きたいと思っていたから、一緒にやらないか」と誘ってもらえたんです。

「俺の挑戦がバッドエンドで終わらずに済む!」とも思っていましたが、本当にやりたいことでもあったので、ぜひ、と。ようやく、経営者でもあり学生でもある、という肩書きの始まりですね。

― 紆余曲折を経ての起業だったんですね。卒業後、経営者一本でやっていこうとはしなかったんですか? 

博士課程への進学はかなり悩んだんですけど、修士卒でそのまま経営者になると「ただの経営者」でしかないんですよ。

それだったら、博士課程に進学して、とことん自学自習を深堀りしてやろうと思ったんです。博士課程と経営者を両立している人は少ないですからね。自分の挑戦としては申し分ないな、と。

ライバルは高校生なんです。博士課程CEOの挑戦

― 実際、学生さんを見ていていかがですか? 

やっぱり、主体的に勉強する姿は気持ちがいいですよね。そこでのストレスがないから、結果的に勉強以外でも活き活きしてくれますし。

― 主体性や自主性に寄り添う塾なんて、なかなかないですもんね。 

ただ教えるだけでは見つけられない、その子の想いを知れるのは良い点だと思います。例えば、なかなか成績が上がらず、個人塾を転々としていた学生さんがいたんですけど、その子、実はめちゃくちゃ魚が好きなんですよ。

― 魚? 

魚の学術書を図書館に自分で申請して、休み時間も読んでいるくらい。たまたまそれを知ったときに、その興味を応援したことがあって。知り合いの財団が、若い人に研究費あげたいけれど候補がいない、と困っていたので、「研究計画作って出してみようよ」って一緒に計画を作ったんです。

そうしたら、見事に研究費をとれまして。その子の家が水槽だらけになるっていう(笑)。

― え、めちゃくちゃすごいじゃないですか! 

普通に塾に行ってたら、そんな興味を知ることも後押ししてあげることもないですからね。しかも、結果的に勉強するんですよ、魚のことを知ろうとしたら。数字も知らないといけないし、論文を読むには英語を勉強しないといけないし。

受験勉強においても、「この研究室に入りたいから、受験勉強を頑張る」って思考のレベルが一個上がるというか。勉強が目的じゃなくて手段になっているので、主体的に勉強してくれるんです。

― 良いサイクルですね。やらされ感がなくなりそう。 

そうやって生き生きしている生徒を見ていると、どんな場面でも主体性って大事なんだな、と思いますね。 

よく「どうやったら自分の興味が見つかりますか?」って社会人の方からも聞かれますけど、大抵の場合は興味を自分の手で殺しているだけなんですよ。

― 興味を殺している? 

どこかで「これが好きだけど仕事にならないし」とか「これで食ってはいけないし」とか、社会性にかこつけて諦めてしまっているんです。

それが悪いわけではないですけど、諦めていることに気付いてない人も多いですからね。答えは自分の中にあるのに、外に答えを求めて空回りしちゃう。

― 確かに……。興味を探している人に限って、「現実的じゃない」と諦めている人は多いかもしれません。

こんな偉そうなこと言っていますが、僕も頑張らないと。僕、ライバルは高校生だと思っているんです。 

― 高校生がライバルなんですか? 

大学受験って、今までしたことないくらいの努力をする時期だと思うんです。そういう子たちを見ているので、この子たちに負けないくらい頑張らないとな、って。

自学自習というテーマは永遠だと思っているので、その軸だけはもうブラさずに。毎年新しく入ってくる生徒たちに、「この人すげえ」って思われるような努力をしていきたいですね。

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取材:山崎貴大
写真・文:安久都智史
デザイン:矢野拓実