新卒フリーランスから会社員へ。杉山大樹が感じたのは「孤独なレベル上げの難しさ」

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第10回目のゲストは、新卒フリーランスとしてファシリテーター・編集者を経験したのち会社員に転身した杉山 大樹(すぎやま・だいき)さんです。

エンターテイメントを自分の軸として東京大学での学生生活を送り、その経験を生かしてフリーランスになったという杉山さん。しかし、フリーランスから会社員に転職するにあたって、ご自身のキャリアについてかなり悩まれたそう。

現在も会社に所属しながら複業を続ける杉山さんのキャリアの裏には、どんな想いや悩みがあったのか。フリーランスと会社員、両方を経験しているからこそのキャリア論を伺いました。

 

広義のエンターテイメントが柱となっていた学生時代

― そもそもなんですが、杉山さんが東大卒業後フリーランスになったのはどうしてだったんですか?

就職活動がうまくいかず、ほぼ受からなかったからですね。自分が行きたいと思える会社だけに絞って、短絡的に大手企業ばかり受けた結果、どこも落ちてしまったんです。それで「どこも採ってくれないのなら、自分で自分を雇ってやるわ!」と、フリーランスになることにしました。今から思えば子供っぽいですよね。

― でもそこで思い切れるのがすごいと思います。

実は、卒業してすぐフリーランスになれたわけじゃありません。学生時代に取り組んでいたことを展開していき、2年の休学でだんだんと仕事をもらっていって、ようやく卒業に踏み切ったんです。

― 学生時代は何をしてきたんですか?

高校時代に演劇部で脚本と演出家をやったのが楽しくて、東大では漫才サークル「笑論法」を立ち上げました。エンターテイメントをやるのが好きなんですよね。その後、東大のオンラインメディア「UmeeT」を立ち上げ、初代編集長として編集や執筆をしてました。

― 演劇と漫才は繋がりがある気がしますが、メディアの編集長というのは未経験ですよね。なぜやろうと思ったんでしょう?

まずはシンプルに「面白そうだな」と思ったからですね。あとは、取材して記事にするのも、広い意味でエンターテイメントだと考えていてボケツッコミみたいな掛け合いで、魅力を引き出していくのが楽しいんです。

そこから休学しながら、京大のオンラインメディアを立ち上げる仕事をもらったり、NHKのオリンピック広報サイトの若者向けページの立ち上げをしたりしていました。

― いろんなところで編集長をされたわけですね。

編集の仕事はフリーランスとしても続けてきたんですが、もう一つエンターテイメントから仕事に繋がってきたのが、ファシリテーションの仕事です。「高校に大学生が出張して進路のワークショップをする」という一般社団法人Foraの立ち上げ初期から関わり、ワークショップのデザインと「学問ファシリテーター育成講座」のディレクターをしてきました。

参加者を巻き込んで楽しみながら学んでもらうことや、難しいことを分かりやすく魅力的に伝えること。それが面白かったですね。

― まさにエンターテイメントが活かされている感じがしますね。卒業後フリーランスとしては、ファシリテーターの仕事を中心にされていたと思いますが。

N高校でインプロ(即興演劇)を使ったワークショップを定期開催させてもらったり、「掛川教育フェス2019」の企画も担当したりもしました。教育系以外でも、「イケダハヤト×箕輪厚介 対談」「Tech×Public Affairs: 社会課題解決のためのルールメイキング」など、パネルディスカッションのファシリテーションのお仕事もいただきました。

 

孤独なレベル上げの難しさを感じ、会社員へ

― とても順調に見えますが、杉山さんは2019年10月からは転職をされているんですよね。フリーランスの働き方から、会社に所属しようと考えたのはどうしてだったんですか?

ぼんやり「フリーランスでこのままいけるだろ」と思ってたんですが、急に焦り始めたんです。フリーランスってフィードバックがもらいづらくて、依頼する側からすれば、何か不満があった場合「次は頼まなければいいや」となるわけです。自分一人で自分を疑って改善していくのって難しくて、レベルが上がっている感覚も掴みづらい。

また、相手がどれくらい喜んでくれているか分からないと、営業も難しくなります。ファシリテーションの中でも「何を得意技として売り込むのか」がぼやけていき、自信がなくなっていったんです。

― 一人で営業からやらないといけないのも、孤独にレベルを上げていくのも確かに難易度が高そうです。

もともと自分への期待が高い人間なんだと思うんです。大学では色々やりたいことやれて、その結果、自信も肥大化していって「最初からフリーでもいけるだろ」という過信が生まれた。でもこれからの80年とかある人生を一人でやっていけるかというと、「いや全然無理だな」と。それを認めて自分を納得させるのに時間がかかりましたが、悩んだ結果、転職することにしました。

― 今は会社員になって、どんなお仕事をされているんでしょう?

東日本大震災の復興から始まった一般社団法人RCFで、10月から「社会事業コーディネーター」として働いています。行政・企業・NPOなど多様なセクターを調整して、社会のためになる座組みを作って動かしていく仕事で、ファシリテーションをより広げた社会での実践版だと思って選びました。

― ここまで働いてみてどうですか?

コーディネーターって思った以上に裏方の仕事で、これまで苦手で避けてきたことだったなと実感しています。だからまだ全然うまくやれません。でも、会社に入って一番思ったのは、「苦手なことをさせてもらえるのはすごい」ということです。

一人で仕事をしていたら、当然得意なことでしか仕事がもらえません。だけど、ある程度の規模の会社なら「今できないのは当たり前だから段々できるようになって、長く役に立ってくれ」なので、逆なんですよね。その体力は、個人では持ちえないので。

― 確かに、会社員だったら当然のことですが、新卒フリーランスだと驚きますよね。

できることだけしてると、深まりはしても広がりはしないんですよね。やりたくないことや得意じゃないことって、実は宝庫だなと。それを楽しむには時間がかかるし、結局楽しめないかもしれないけど、無駄にはならないなとようやく思うようになりました。

「フリーで好きな得意なことだけしよう!」って思ってたけど、よほど壮大なトピックで、正しい努力を続けられなければ、飽きるか負けるかしてしまうと思うんです。昔は「3年は勉強だと思ってとりあえず就職しよう」という考え方を理解できなかったんですが、今となっては、そうだよなと思えます。

― フリーランスに挑戦して、悩んで方針を変えた。だからこそ、全然違う考えが腹落ちしてきたんですね。

 

働き方のバランスを探りながら生きていく

― 今は、一社にフルコミットして働いているんですか?

いえ、RCFは週4日勤務にさせてもらって、フリーランス的な動きも続けています。やりたいことや得意なこともしてないと、僕は元気がなくなってしまうので。

週の残り3日で、「東京モーターショー2019 10代未来会議」のファシリテーターを務めたり、ライフイズテックで中高生のプログラミングスクールに関わらせてもらったり。他にも様々なチャンスに巡り合っています。

― それが今の杉山さんにとっての良いバランスなわけですね。

そうですね。バランスも場所も、一生探りながら働いていくんだろうなあと思います。フリーランスになった時から思ってましたが、ずっと就活を続けている感じです。

― 普通の道じゃないからこそ、人より多く壁にぶつかって、多く道を変えて進んでいるように見えます。

多分頑固で、経験からしか学べないんだと思います。もっと賢くやれる人もいるんでしょうが、誰にアドバイスされたって自分が納得できないことは採用できないのかもなって。今の僕が昔の僕に会えたとして、頑張って説得したとしても絶対聞いてくれないでしょうね(笑)

ストイックに頑張ってるというより、振り返ったらこうなってた。人生そんなものなのかもしれない、と思っています。

― あらかじめ綿密な計画を立てて進むより回り道かもしれないけれど、様々な壁にぶつかりながら自分らしい働き方のバランスを見つけていく。そうすることで、納得感のある人生になるような気がします。U-29世代が自分らしい働き方を見つける際の参考にしてほしいと思います。

 

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取材:西村創一朗
写真:山崎貴大
文:杉山大樹
編集:ユキガオ
デザイン:矢野拓実