自己分析でキャリアの「モヤモヤ」をなくした久保田彩乃が語る3つの秘策

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第19回目のゲストは、株式会社LITALICO(以下、LITALICO)で中途・新卒採用を担当されている久保田彩乃(くぼた・あやの)さんです。

常に自らテーマ設定をし、情熱を持って動けるかどうかを軸にキャリア選択をしてきた久保田さん。仕事で成果が出せず苦労したどん底期も、自己分析をすることで乗り越えてきたそう。

もともと予防医療に関心を持ち、大学でヘルスケア領域を学んだ彼女が、どのように現在のキャリアを選んできたのか。自分の道を選ぶ基準や、キャリアにおける「モヤモヤ」をなくすための秘策など、キャリア選択に悩むU-29世代に役立つお話を伺いました。

 

奨学金制度で感じた社会の壁

ー 高校や大学での経験で、今のキャリアにつながっていると感じるものはありますか?

一番大きかったのは大学進学かなと思います。家族が中高時代に病気になった経験があったので、健康の重要性を感じて医療系の大学に進もうと考えたんです。でも、経済的に余裕がなかったので、返済不要の奨学金をいただいて通おうと思いました。

奨学生は学校の成績で選ばれるため、どれだけ想いがあったり人柄が素敵だったりしても、奨学金をもらえない人たちがいるんですよね。そんな中で自分が奨学生に選ばれたことを、ただ「運が良かった」で終わらせたくないなと感じたんです。やりたい事を実現したり才能を発揮したりするためには、機会に差が出るべきではないな、と。

だけど奨学金の制度を見ていると、努力を超えた先にある「社会の壁」を強く感じました。私はなんとなく選ばれたような気がして、そういう自分を恥じながら、ギャップを埋めていくことをしたいなと思ったのが大きかったです。

ー 課題意識を持って大学に進学したわけですね。どんな大学に通っていて、どんな学生生活を送っていましたか?

「保健師」という、病気の予防や健康の維持・増進を目的に活動する国家資格を取りたかったんです。そのためには看護師の資格が必須なので、保健学科のある大学に通っていました。ただ「看護師にはならないぞ」というマインドで過ごしていたので、学外の知見を自分で取りに行くことを楽しんでいましたね。

予防医療の「人が病気にならないようにするにはどうしたら良いか」というテーマを追って、東京に勉強しに行ったり海外の学会に出かけたり。そのつながりで医療系のスタートアップでお手伝いしたり、国会議員のところでインターンをしたりもしていました。

 

ファーストキャリアで「心の健康」の重要性に気付く

ー 大学を卒業後、新卒としてリクルートキャリアを選んだ理由はなんですか?

当時、医療業界の外に出て、人が健康に生きるために自主的に健康を維持できるようなサービスや、それを利用し続けられる仕組みを世の中に作りたいなと漠然と思っていました。とはいえ、仕組み化して使ってもらうためには、対象者に自発的に行動してもらわないといけない。ただ、仕事がとても忙しいと健康を維持するために行動するのが難しいんですよね。

そこで働き方の事例をたくさん知れば、健康維持行動を阻害する要因を学べるんじゃないかと思ったんです。あと、感情を動かすテクニックをたくさん学べば、行動変容の一歩を踏み出せるんじゃないと思い、就職先を絞りました。大手企業なら数多くの事例がみれるだろうという考えもあって、リクルートキャリアを選んだんです。

ー それが2017年の4月ですね。入社後はどんなことをされていたんですか?

法人営業として、メーカーの新卒の人材紹介をしていました。入社したときに持っていたテーマは、働き方の事例を見ていくことで自分の専門性を絞っていくこと、そして人を動かす力を身に付けること。前者のほうは日常業務では満たされないだろうなと思っていたので、社内の資料を見たり研究所の社員に会いに行ったりして勉強していました。学会やフォーラムにも通っていましたね。

人を動かすという点は、通常業務の中で良い経験が得られたんです。たとえば、社内の立場によって主張が異なるので、それを取りまとめながら動かしたり。論理的な力や目標達成から逆算したときに何の数値を見ればいいのか、誰にどの順番で何を言ったらいいのか、といったことが学べました。

ただ、入社して3ヶ月目くらいの頃、周りで鬱や適応障害になる人がいて、人は案外しんどくなるものだし、これは深刻な課題だなと思うようになったんです。そこから、体の健康だけでなく心の健康や自己肯定感をテーマとしてサービスをつくりたいという気持ちが強くなっていきました。

ー 関心が体の健康から心の健康にシフトしていったんですね。そこから転職に至ったきっかけは何だったんでしょう?

仕事自体は面白かったんですけど、どこかで情熱を感じきれていない自分にも気付いていて。できないことができるようになっていくことや、立てた目標を達成していく喜びは確かに感じていたんですが、一方で学生時代のような情熱はないな、と。今の自分と、かつて情熱を持ってがむしゃらに動き回っていた自分とのギャップをずっと感じていました。「もう一度自分が情熱を持てるものを探したい」という気持ちが強くなっていたんですよね。

そんなとき、就活が全然上手くいかないという就活生の面接に、企業側として同席する機会がありました。就活が上手くいかずボロボロになっていて、発達の仕方にもデコボコがあるような方で、「採用は難しいな」と思うと同時に、奨学金制度で感じたことがフラッシュバックしたんです。

配置によっては活躍できるかもしれない人たちが、強烈なミスマッチによって活躍できていないこの状況を解消すること。そこになら、情熱を注げそうだなと思いました。ですが、今の会社の方向性や経営の方針と、自分がやりたい方向性とのミスマッチは感じていて。だったら、既にその事業をやっている場所に移ったほうがいいと思い、LITALICOに転職したんです。

 

自己分析することでどん底期を乗り越えた

ー LITALICOでは採用担当として転職されたんですよね。なぜその職種を選んだんですか?

今の自分の能力と、LITALICOという会社において一番難しい点はどこなのかを考えたときに出た答えが「採用」だったんです。当時のLITALICOは、既存の店舗サービスから徐々にIT系の事業をつくり福祉業界全体にSaaSプロダクトを入れていくフェーズだったので、ここで活躍できる人材採用をしなければならないと聞いていて。これまでにない挑戦ができそうだと思ったんですよね。

ー なるほど。しかし、なかなか成果が出せずに苦しんだ時期があったんだとか。

そうなんです。入社した当初は良かったんですが、そのあと1年くらいはどん底で。期待していただいていて責任のある立場にいましたし、求めればなんでも教えてもらえるという、恵まれた環境にいることは間違いありませんでした。一方で、なにをやっても自分の手から勝手に物事が離れていって、ドライブしきれないと感じることがすごく多かったんです。

予算が限られていたりいろんな人から意見が出てきたり、外的な要因もありました。でも、これまで自分の手で何かを動かすという経験をしてきた分、自分でなにも動かせていないことで自己肯定感が落ちたり自分の存在意義を感じられなかったりすることが半年以上続いたんです。とても辛い時期でしたね。

ただ、動かなければ成果は出ないという思いが強かったので、行動することだけはやめませんでした。最近やっと乗り越えられた感じがしています。

ー どん底の時期をどうやって乗り越えてきたんでしょう?

モチベーションについて自己分析をしました。これまでは、中長期的な自己成長や「社会を変える」というすぐには達成できなさそうな目標を追ってきたんです。一方、今日も会社に行って成果を出すといったことに対しては、中長期的な目標設定をしても意味がありませんよね。

だから、中長期的な目標の逆算ではなく「今日も楽しいと思える軸を探そう」と思ったんです。そのときに気付いたことが二つあって、ひとつは、今この仕事は意味付けをしなくても面白いと思えているということ。しんどい状況だけど、やる意義やワクワク感を毎日感じているし、自分じゃないとできない仕事だなとシンプルに思えていたんです。

もうひとつが、数値的に量を積み上げていく、あるいは削減していくということが楽しいということ。一日の全部のアクションを定量化して、とにかくやりきる。自分は達成感を満たしていくことにやりがいを感じられるんだな、ということに気づきました。この二つに気付いたあたりから、だんだん物事が上手くいくようになったんです。

 

自分のキャリアでモヤモヤしないための3つの秘策

ー 久保田さんは、自分のキャリアに対して「モヤモヤしない」ための仕組み化をしているそうですね。具体的にどんなことを心掛けているんですか?

はい、実は三つの秘策があるんです。一つ目は、変に意味付けせず今自分がやりたいことに全力で向かっていくということ。「今はやりたくないけど、将来のために逆算すると価値がある」ということもあるとは思うのですが、やりたいことが目の前に来たときに掴んだほうがパフォーマンスは高くなるので、私は「目の前のやりたいことを全力で掴んでやりきる」ということを大事にしています。

二つ目が、モチベーションを長期と短期の2軸にわけ、短期目標を定量化すること。会社から出されているKPIが長期的だったら、モチベーションを維持するのが難しいんですよね。それをデイリーに落とし込んで数値化し、週次や月次でサイクルを回して達成感を満たすようにしています。

三つ目が、「社外の方の力を借りる」ということです。社内にいるとどこか偏ったものの見方をしてしまったり、ビジョンを共有しているからこそ見えない視野があったりすると思っていて。自分のメンターとなりうる方を社外に探して、相談する時間をいただくようにしています。

この三つを実行できれば、あとはどこへ行っても機会を掴んで成長できると思い、あまり悩まなくなりましたね。

ー 三つ目の秘策はすごく大切なことだと思うんですけど、メンターに出会えない人もいると思います。出会うためにはどうしたらいいでしょうか?

情報収集することと、そこに出向くことだと思います。私の場合は、まずテーマを決めて文献を読み、自分になさそうな知識を持っている人や、みんなが称賛している人たちを探すんです。そしてそういう人が登壇するイベントに行き、イベント終わりや帰りに声を掛けて、1分程度で自分のことを伝えています。

ー エレベーターピッチ(短時間でのプレゼン)をするわけですね。

はい、それが一番効果的でしたね。そういうことしている人は世の中に少ないらしいので、喜んでもらえます。さらに、エレベーターピッチの中で「○○という話をしたいので別で時間をもらえませんか」というところまで約束を取り付けるんです。相手が年配の方だと、だいたい快諾していただけますし、「若者が頑張っている」と応援してもらえますね。

ー 自己分析ができていない人は多いと思います。そういう人たちに、自分自身を振り返る習慣やもっと生きやすくなるためのコツを教えて下さい。

コツは二つあると思っていて、ひとつは「自分のwell-beingを保つ」ことですね。自分がホッとできる瞬間や安らげる瞬間を言語化しておき、定期的に繰り返すことが大切だと思います。

もうひとつは「他人に自分の状態を把握してもらう」ということ。自分だけだとしんどい状態に気づけず頑張り過ぎてしまいますが、周囲は気付いていることが多いんですよ。「ヤバそう」だと思われていたとしたら、その「ヤバそう」を何で評価してるのか聞きに行くといいんじゃないでしょうか。

ー 最後に、今後2〜3年でチャレンジしたいことを教えてください。

私は、みんな課題だとは思っているけど自分の手では解決できないと思っていたり、ポテンシャルを秘めているけど活躍できていなかったりする人たちが、それを自分の手で解決しようと思える社会にしていきたいし、そういう人を増やしていきたいんです。

LITALICOの「障害のない社会をつくる」というビジョンは、障害の有無ではなく、個人と環境の間に生じているズレそのものを極力社会と個人両方に働きかけてなくしていきたいというもの。それは、LGBTや女性活躍などいろんなテーマがあると思います。だから私はこの会社を通じて、人材市場を動かしていくようなことしたいと思っています。

自社の採用という視点以上に、日本社会において「これまで誰も解決してこなったような課題解決に自分の力を使っていくのがかっこいい」という社会にしていきたいですね。

(取材:西村創一朗、写真:山崎貴大、文:品田知美、デザイン:矢野拓実)